恋の秋
〈四季の物語〉

1998/09/24 メディアボックス試写室
『春のソナタ』『冬物語』『夏物語』に続くロメール監督の最新作。
恋のすれ違いを描く大人のラブ・コメディ。by K. Hattori


 名峰ヴァントゥー山を望む南仏プロヴァンス地方で、ワイン作りをしている未亡人マガリを、何とか結婚させようとする人々の右往左往ぶりを描いたラブ・コメディ。これは『春のソナタ』『冬物語』『夏物語』に続く、エリック・ロメール監督の「四季の物語」シリーズ完結編。僕は前3作を観ていないのですが、内容的には独立しているのでまったく問題はなかった。マガリの親友イザベルは、新聞広告でマガリに似合いの相手を捜そうとし、マガリの息子の恋人ロジーヌは、自分がかつて付き合っていた哲学教師を、マガリに引き合わせようとする。クライマックスは、イザベルの娘の結婚式。マガリを巡ってふたりの男が接近したり離れたり、一目惚れしたり幻滅したりと、微妙な恋のすれ違いを演じてゆきます。

 物語そのものは非常に地味なのですが、登場する人物たちがそれぞれ色彩豊かに描かれているので、映画の印象はきらびやかなものになっている。色彩豊かな人物たちと言っても、特に個性が際だった人や、外見や容貌に特徴のある人が登場するわけではない。この映画では、イザベル、マガリ、ロジーヌという3人の女性に、ロジーヌの元恋人エチエンヌ、新聞広告に応募してきたジェラルドというふたりの男性を加えた5人が、物語の中心になっている。登場頻度や役柄の重要度に違いはあるものの、この5人の人物像の描き方は完璧。ちょっとした台詞の切れ端から、人物の過去や現在を浮かび上がらせる脚本の妙技と、それに血を通わせる俳優たちの演技が見事に解け合って、作り物の人物たちに生身の人間の息吹を吹き込んでいるのです。

 お節介やきのイザベル。自分の仕事に自信を持ちながらも、人見知りの激しいマガリ。少女のような自由奔放さと、大人の女性の魅力を併せ持つロジーヌ。ロジーヌに去られた心の痛手を癒しきれず、未練たらたらのエチエンヌ。イザベルのいたずらに呆れながらも、新たな出会いを求めてパーティーに姿を見せるジェラルド。みんな僕たちの隣にいそうな人たち。ごく普通の好人物です。観客が実際には出会ったことのないスーパーヒーローや連続殺人鬼を演じるより、観客の隣人であるごく普通の好人物を演じる方が、役者にとっては難しいはずです。この映画は、その難しさをまったく感じさせない自然さにあふれている。まるで空気のように自然です。

 「彼氏のいない友達に似合いの男性をさがそう!」というノリは、ほとんど女子中学生か高校生のもの。それを、いい年をした大人たちが本気でやるから面白い。年をとって分別くさくなってしまう大人たちより、いくつになっても「恋」にドキドキしたり、ワクワクしたりしている大人たちの方が素敵です。観ているこちらまで、ドキドキワクワクさせられてしまいました。

 マガリ役のベアトリス・ロマンと、ジェラルド役のアラン・リボルが特に印象に残りました。ロジーヌ役のアレクシア・ポルタルも美人だけど、振られる哲学教師に同情してしまって、個人的に減点してしまった……。

(原題:CONTE D'AUTOMNE)


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