すべての道はローマへ

1998/09/08 メディアボックス試写室
ジェラール・フィリップが堅物の数学者に扮して三枚目ぶりを見せる。
1948年製作のスクリューボール・コメディ。by K. Hattori


 アメリカからフランスにやってきた豪華客船の中で起きた、某国の機密書類盗難事件。事件の真相を追う新聞記者のひとりが、密かに下船したアメリカの女優に目をつけた。記者に容疑者扱いされて事件に巻き込まれたアメリカの女優と、彼女を犯罪者に追われる悲劇のヒロインと勘違いした探偵小説マニアの数学者が、自動車や船を使って記者から逃げ回る……。ジャンルとしては、スクリューボール・コメディに該当するのでしょう。僕はこの映画を観て、クラーク・ゲーブルとクローデット・コルベール主演の『或る夜の出来事』を連想しました。あるいは、ジョエル・マックリーとベロニカ・レイク主演の『サリヴァンの旅』に近いのかも。ダニー・ケイ主演の『虹を掴む男』みたいなとこもある。とにかくこの映画が、'30年代から'40年代にかけてアメリカで作られたコメディ映画の流れをくんでいるのは間違いないでしょう。主演はジェラール・フィリップとミシュリーヌ・プレール。1948年製作のフランス映画です。

 堅物の数学者が、電話で仕事の打ち合わせをしている女優の会話を耳にして、彼女が何者かに命を狙われていると勘違いしたことから話がはじまります。彼は彼女の正体を知らないまま、柄にもない義侠心を発揮して彼女のボディガードを申し出る。旅に飽き飽きしていた女優は彼の勘違いに気付きながらも、ローマまでの退屈しのぎに彼の申し出を受け入れる。彼女にとって、どう見ても野暮ったいこの男の申し出を受けたのは、一時の思いつき。単なる気まぐれに過ぎません。ところがいついかなる時も、彼女を精一杯守ろうと奮闘する男の姿を見て、彼女は少しずつ彼に惹かれて行くのです。

 二枚目スターのジェラール・フィリップが、髪の毛ぼさぼさでメガネをかけた、いかにも野暮ったい三枚目を演じているのがミソ。この映画では、彼が「メガネを外すと意外にいい男」であることも、ギャグにされてしまう。湖に落ちてずぶ濡れになった彼が、暖を取るために奇妙な体操をするシーンはおかしいし、新聞記者とのドタバタの追っかけ、火事騒ぎの中でテーブルの下を這いつくばって進んで行くシーンも面白い。

 ミシュリーヌ・プレールが、素朴なフランス男と恋に落ちるアメリカ人女優を演じているのは、この映画がアメリカのスクリューボール・コメディに影響を受けていることを示す、ひとつの証拠かもしれません。フランス人たちにとって、アメリカというのは当時から「映画の国」であり、アメリカ人の女優は「銀幕の恋人」だったのね。フランス人もアメリカ映画が好きなのです。彼女の英語が、見事にフランス訛りになっているのはご愛嬌。

 この映画は11月からはじまる「ジェラール・フィリップ映画祭II」の中で上映される作品の1本。映画としての出来が飛びぬけていいとは思いませんが、今では絶対作れない、楽しくて可愛い映画です。フランス製のスクリューボール・コメディなんて珍しいし、ジェラール・フィリップの三枚目ぶりも面白いかもしれません。

(原題:Tous les Chemins Menent a Rome)


ホームページ
ホームページへ