ダークシティ

1998/09/01 ヤマハホール
『クロウ/飛翔伝説』のアレックス・プロヤス監督の最新作。
映像がものすごい。これは一見の価値あり。by K. Hattori


 主演のブランドン・リーが撮影中の事故で死亡するという不幸に見舞われながらも、素晴らしい映像効果で『クロウ/飛翔伝説』を傑作に仕上げたアレックス・プロヤス監督の最新作。浴槽の中で目覚めた記憶喪失の男が、自分の正体と世界の秘密を探ろうとするミステリーだ。『クロウ/飛翔伝説』で見せた美術へのこだわりは今回も健在で、'40年代風の街の景観とファッション、ハードボイルド小説風のミステリー、'50年代パルプSF風のストーリー展開に、最新のSFX技術が融合した異様な世界。アルトマンの『カンザス・シティ』が持つスタイリッシュな暗さに、ジュネ&ギャロの『ロスト・チルドレン』のファンタジーを加え、『L.A. コンフィデンシャル』にあったディテールへの執着と、『KAFKA/迷宮の悪夢』や『ロスト・ハイウェイ』の不条理なミステリーの匂いを漂わせつつ、ストーリーのアイデアはフィリップ・K・ディックだったという作品です。

 映画の序盤は物語が断片的なイメージの積み重ねで語られ、まるで映画の予告編のようです。あるいは、ゲーム盤の上にバラバラに伏せてあるカードが、少しずつランダムに開かれて行く感じと言えばいいかもしれません。ひとつひとつのカードには脈絡がないようで、最初は少し戸惑う。巨大な都市の夜景を見つめる科学者の視線、12時を告げる時計、ゆっくりと活動を停止して眠りに入る街……。そしてその眠りの中で、主人公の男はふと目を覚ます。場所は安ホテルのバスダブの中。自分がなぜそこにいるのか、まったく記憶にないという驚き。そもそも自分は誰なのか。額からは一条の血。ベッドルームには、半裸の女の死体が血まみれで転がっている。そこに突然の電話。「君は治療の失敗で記憶喪失になったのだ。君を追う男達が行くからすぐに逃げろ」と電話の主は叫ぶ。あわてて部屋から飛び出した主人公の後を、青白い顔をした数人の男達が追いかけ始める。

 映画を途中まで観て、僕はこの映画のアイデアの半分ぐらいがフィリップ・K・ディックの「宇宙の操り人形」ではないかとアタリをつけました。巨大な建物が地面からニョキニョキ生えてくる様子や、室内がゆっくりと姿を変えて行く様子は、以前小説で読んだ場面を思い出してしまった。最後に超能力合戦になるのも、たぶん小説と同じだと思う。それにしても、こんな正統派の超能力勝負は『スキャナーズ』以来かもしれないぞ。

 主人公ジョン・マードックを演じているのは、日本ではまだ無名のルーファス・シーウェル。馴染みの薄いこの役者を、ジェニファー・コネリー、ウィリアム・ハート、キーファー・サザーランドらの顔なじみが取り囲んでしっかりサポート。ビジュアル面だけでなく、ドラマ部分も謎が謎を呼ぶ展開で、一瞬たりとも目が離せない。

 この映画はヒットするしないに関わらず、おそらく一部の熱狂的な支持者を得て、すぐにカルト・ムービーになるでしょう。一見の価値はある映画です。

(原題:DARK CITY)


ホームページ
ホームページへ