知らなすぎた男

1998/08/28 ワーナー試写室
ビル・マーレー主演のスパイに間違われた男を巡るコメディ。
話そのものはショボイけど楽しめます。by K. Hattori


 ビル・マーレー主演のスパイ・コメディ映画。タイトルはヒッチコック映画『知りすぎていた男(原題:THE MAN WHO KNEW TOO MUCH)』のもじりになっているが、映画そのものはパロディというわけではない。外国を訪れたアメリカ人が、現地でスパイの暗闘に巻き込まれるという大枠は同じなのだが、映画の狙い所がサスペンスでもスリラーでもないのだ。この映画を一言で表現すれば、大掛かりな「取り違えコメディ」です。

 この映画でモチーフになっているのは、「参加演劇」という新手のエンタテインメント・サービスです。プロの役者がよってたかって主人公をだます『ゲーム』という映画がありましたが、参加者があらかじめ「これは芝居だ」とわかっていれば、これほど魅力的なエンタテインメントはありません。参加者は退屈な日常生活を抜け出して、正義の味方にでも、卑劣な悪漢にでも成りきることが出来るのです。こうした「参加演劇」は、'80年代に実際にイギリスで流行したものだそうです。

 この映画では、参加演劇のサービスを申し込んだ主人公が、いつのまにか本物の陰謀事件に巻き込まれてしまいます。ところが主人公は自分の周囲で起こっている事件が、すべて芝居だと思っているから余裕しゃくしゃく。殺し屋も恐くない、ピストルも恐るに足らず、美女とのロマンスもあって当然だし、警察とのカーチェイスも芝居のうち……。自分の置かれている危機的な状況に気がつくことなく、徹底して最後まで勘違いしているのです。ところがこうした主人公の姿を見て、本物の殺し屋やスパイたちは「なんて肝っ玉のすわった男だ!」「まるでスーパーマンだ!」とビックリする。主人公はタフなスーパーヒーローを気持ちよく演じているのですから、そう見えるのも当然なんですが……。

 次々起こる事件の数々が、刺激を求める主人公を大いに喜ばせ、その様子を見て周囲が驚くという二重の取り違えぶりがじつに面白い。こうした「取り違えギャグ」は、コメディ映画の中にしばしば登場する定番アイデアではあるのですが、この映画では1時間34分の上映時間中、最後までこの取り違えが続くのです。途中で主人公が真相に気付いて大慌て、という展開になるのかと思ったら、まったくそうならない。事件が一段落してエピローグになっても、主人公が真相に気付かないというのは徹底しています。その点について主人公は鈍感な男なんですが、ビル・マーレーのキャラクターがそれを埋め合わせて、あまり鈍い印象を与えていません。

 監督は『ジャック・サマースビー』『コピーキャット』のジョン・アミエル。この作品そのものはアメリカ映画ですが、監督がイギリス出身、脚本家もイギリス人、舞台がロンドンということもあり、ハリウッド映画にはない、少し意地悪なユーモアの香りがする映画に仕上がりました。ビル・マーレーは日本ではなかなか作品がヒットしない俳優なんですが、この作品も、たぶん駄目なんでしょうね。面白いんだけどなぁ……。

(原題:THE MAN WHO KNEW TOO LITTLE)


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