アベンジャーズ

1998/08/25 ワーナー試写室
'60年代のスパイ・コメディを豪華なキャストでハリウッド・リメイク。
楽しむには観客の側に洒落っ気が必要です。by K. Hattori


 '60年代にイギリスで製作された同名テレビシリーズの映画版。内容は今年流行のスパイ・コメディ。首相直属の秘密スパイ組織が、異常気象で世界転覆を図るマッド・サイエンティストの野望を食いとめる。主人公は英国紳士流ファッションに身をかためた伊達男、ジョン・スティード。演じているのはイギリス人俳優のレイフ・ファインズ。彼とコンビを組むのは、ファッション雑誌から抜け出してきたような長身の美女、エマ・ピール博士。演じているのはギリシャ彫刻を思わせる美貌の持ち主、ユマ・サーマン。人為的に異常気象を起こす装置を開発することで全人類を人質に取り、巨額の身代金を取ろうとする科学者サー・オーガスト・デ・ウィンターを演じているのは、スコットランド出身の世界的大スター、初代ジェームズ・ボンドことショーン・コネリーです。

 陰謀の規模はものすごく大きいのですが、陰謀の主はひとり、それに立ち向かうのがたったのふたり。背景の立派さに比べると、人物がすごくチャチです。でもこの映画ではそのチャチさを逆手にとって、荒唐無稽なスパイ作戦の様子を面白く見せている。なにしろこの映画では、ロンドンが異常気象でメチャメチャに破壊されても、誰も怪我をしないし被害をこうむらない。そもそもこの映画には、主人公立ちを取り巻く諜報組織の面々と悪党たち以外に、一般人が誰も登場しないのです。これはテレビシリーズから踏襲した、『アベンジャーズ』独自のお約束です。主人公たちは観衆もなく、市民からの賞賛もない世界の中で、好き勝手に悪と戦って勝利を収める。ここでは正義と悪が絶対的な対立になっていて、それらを相対化する第三者がいないのです。まるで子供だましの世界。それに大金をかけて映画にしてしまう大人たちの洒落っ気。それがわからない人には、ひどくくだらない子供だましの映画に思えるかもしれません。

 ユマ・サーマン演ずるエマ・ピールの活躍が、この作品の大きな魅力なのでしょう。ファッション・ショー並に次々と披露される彼女のコスチュームを見せるために、この映画ではエマ・ピール本人と、彼女にそっくりの偽エマが登場し、華麗なファッション合戦を見せてくれる。エマのトレードマークでもある黒レザーのキャットスーツも、ノーマルの物と蛇皮調の物の2種類を用意する周到さです。ところがこうして主人公を2つのキャラクターに分けてしまったため、エマ・ピール本人の魅力が半減しているのは残念。どちらかと言うと相棒のジョン・スティードは彼女のアクションに対して受身のキャラクターなので、エマのキャラクターの失速が映画全体の勢いを殺している印象を持ちました。

 最新のCGやデジタル合成技術を使ったアクションシーンは迫力満点。ある程度の誇張が許される世界なので、スタント場面にはかなりメリハリがあります。どこかで観たような場面も多いのですが、そこには多少目をつぶって、バカバカしいまでにおしゃれぶった『アベンジャーズ』の世界を楽しんでほしいと思います。

(原題:The Avengers)


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