ダライ・ラマ

1998/08/01 サンプルビデオ
『セブン・イヤーズ・イン・チベット』に対抗せよ!
チベット問題、中国側の反論。by K. Hattori


 ブラッド・ピット主演のハリウッド映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』に激怒した中国が、世界中で巻き起こるチベット擁護キャンペーンに対抗するために作ったドキュメンタリー作品。中国のチベット支配を正当化するため、ありとあらゆる映像資料やインタビューを集めた力作です。共産党政府によるチベット支配政策を担当した役人たちのインタビューや、当時の親中国派チベット人たちのインタビュー、かつて貴族の農場で働いていた人たちのインタビューなどがあり、資料としては貴重なものだと思います。『セブン・イヤーズ・イン・チベット』の中で祖国を裏切った売国奴として描かれていたンガワン・ジグメという人物がいますが、彼のモデルと思われるガプー・ガワン・ジグメが、自分がいかに祖国のために熱心に働いたか、それがダライ・ラマの軽率な行動によって、いかに裏切られてしまったかを切々と訴える場面は最高に面白い。それぞれの立場によって、それぞれの言い分というものがあるのですね。

 この映画が訴えているのは以下のようなことです。チベット民族は、宗教さえ除けば他の中国人と何ら変わらない。チベットはもともと中国の各王朝に仕えてきた伝統があり、昔も今も中国の一部である。チベットでは僧侶や貴族による人民の搾取が大っぴらに行われ、人民は塗炭の苦しみを耐え忍んできた。宗教と政治の密接な結びつきが、特権階級を擁護し、人民を無知と迷信の中に置き去りにしていた。ダライ・ラマ14世の誕生には、政治的な思惑と不正がある。中国の進歩的なリーダーたちは、チベットで不当な苦しみを受けている人民を解放するため、ダライ・ラマを始めとするチベットの指導者たちと粘り強く交渉した。欧米各国は自国の利益のためにチベットの独立を支援し、穏健なチベット人たちを焚き付けて反乱を後押しした。ダライ・ラマは当初中国政府に協力的だったが、周囲の保守反動勢力がダライ・ラマに悪い影響力を与え、インド亡命という最悪の結果を招いた。ダライ・ラマ不在のチベットは順調に発展を続け、人民は解放を心から喜んでいる。

 「盗人にも三分の理あり」と言いますが、この中国側の主張は「盗人猛々しい」という部類でしょう。でもこうした侵略者側の言い分というのは、いつどの時代のどんな国の人でも同じなんですね。日本の朝鮮支配や満州支配を正当化する人も、口調はまったく変わらない。もっとも僕はチベット問題に暗いので、中国側の主張のどこが脚色で、どこから嘘八百なのかはわからないけどね。

 こうしたプロパガンダは共産国も含む全体主義国家の常なんですが、『ダライ・ラマ』を見て「中国は嘘つきだ」と非難する知識人やマスコミも、戦争中の日本の蛮行を非難する中国側の言い分には、なぜか黙ってしまう。チベット問題で平然と嘘をつく中国ですから、他の場所でも多かれ少なかれ自国の利益のためには平然と嘘をついているでしょう。我々が『ダライ・ラマ』という映画から学ぶべきは、そうした部分なのかもしれません。

(英題:THE DALAI LAMA)


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