イン&アウト

1998/07/29 GAGA試写室
突然ホモだと名指しされた教師の戸惑いを描くコメディ映画。
話に唐突なところがあって白ける。by K. Hattori


 2本目の出演映画『ホモに生まれて』で見事アカデミー主演男優賞を獲得した新進俳優のキャメロン・ドレークは、受賞スピーチで多くの人に感謝の言葉を捧げる。「特にお礼を言いたいのは、高校生の僕に文学を教えてくれたハワード・ブラケット先生です。彼はホモでした。素晴らしいホモの教師に感謝を捧げます」。この発言に驚いたのは、ホモだと名指しされた高校の国語教師、ハワード・ブラケット本人だった。彼は同僚教師と1週間後に結婚式をあげる予定。ホモだなんてとんでもない。なぜキャメロンが自分をホモだと言い出したのか、彼にはさっぱりわからない。婚約者と両親に弁解したものの、母親は「たとえあなたが銀行強盗でも、人殺しでも、ホモであっても、私はあなたを愛してるわ」と、泣かせる台詞でハワードを慰める。(でもこれって、結局ハワードがホモだという可能性を保留しているのだ。)

 授賞式翌日から、学校の回りは大混乱。マスコミの取材が山のように押し寄せ、おせっかいなレポーターが身の回りをウロウロ。生徒や友人たちはハワードの弁解に一応は耳を傾けたものの、腫れ物に触るような扱いをして逆にハワードを苛立たせる。はたしてハワードは、無事に結婚式を挙げられるのだろうか……。

 芸達者なケビン・クラインが、突然ゲイだと言われて当惑する国語教師を演じてハマリ役。婚約者のエミリーを演じているのはジョーン・キューザックですが、34キロ痩せたという役柄に合わせるように、最近太っちょ気味の身体をすっかりスリムにしているのには感心しました。こうして見ると、やっぱり美人です。アカデミー授賞式の爆弾発言でハワードを窮地に追い込むキャメロン役はマット・ディロン。ハワードにうるさく付きまとうTVレポーターがじつはゲイという設定が可笑しいのですが、演じているのがマッチョタイプのトム・セレックだというのがまた可笑しい。ハワードの母親役で、『雨に唄えば』のデビー・レイノルズも出演してます。脚本は『ジェフリー』のポール・ラドニック。監督は『ダーク・クリスタル』『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』のフランク・オズ。

 これだけのメンバーが集まっているのに、僕はこの映画を面白いと思えなかった。物語全体をもっと辛辣なユーモアで埋め尽くすことも出来るのに、あと一歩のところで遠慮しているような気がする。自分がホモである自覚のない人がホモのレッテルを張られ、理不尽なホモ差別にさらされるうち、自分の中にある同性愛指向に気づいて行く話なのに、肝心の「差別」がちっとも描かれていないから、話が甘っちょろくなる。

 そもそもキャメロンがハワードをホモだと言った理由がわからないし、ハワードが突然カミングアウトする理由もわからない。このあたりは脚本の不備でしょう。これらがうまく描けていないから、クライマックスであるはずの卒業式シーンがちっとも盛り上がらない。これだけのメンバーがいるのに、もったいない映画です。

(原題:In & Out)


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