マスク・オブ・ゾロ

1998/07/14 日劇プラザ(試写会)
アントニオ・バンデラスが覆面のヒーローを演じる剣劇映画。
アクションシーンはどれも最高にかっこいい。by K. Hattori


 19世紀初頭。カリフォルニアはスペインの植民地支配を脱したものの、その権威は強欲な領主たちに引き継がれ、農民たちは圧政に苦しんでいた。そんな中、庶民のヒーローとして登場したのが、覆面の男「ゾロ」だ。その正体はスペイン人貴族、デ・ラ・ベガ。しかしスペイン統治最後の日、彼は最後の総督ドン・ラファエルに逮捕され、妻を殺され、生まれて間もない幼い娘も奪われてしまう。それから20年後、牢を脱出したデ・ラ・ベガは、ドン・ラファエルへの復讐を誓う。

 最初から最後までチャンバラが続く、なんとも豪華な剣戟映画。チャンバラシーンは見応えがあるし、馬を使った大規模なスタントもスリル満点。手に汗握る一大冒険活劇の登場に、思わず拍手喝采の2時間17分。正義の戦い、家族や仲間の復讐、燃え上がる恋の炎など、お話の方はまるきりベタな展開ですが、この手の古典的アクション映画には、古典的な筋運びが似合っている。スクリーンにシルエットでゾロが登場し、振り向きざまに画面を切り裂いて大きく「Z」の文字を刻むオープニングとラストシーンには、身体が震えるぐらい感動したぞ。この手のチャンバラ映画には、こうしたハッタリが必要なのだ。この後すぐに、公開処刑を妨害するゾロの活躍を描くのだが、一仕事終えて去って行くゾロが、太陽を背に決めのポーズをつけるあたりも涙モノです。

 ヘンテコなリアリズムに流されず、マンガでいい部分はどんどんマンガ的展開に流して行く思い切りの良さ。剣戟は残酷描写に落ちず、ひたすら肉体アクションの爽快さだけを追い求めたスポーツ中継さながらの展開。『仮面の男』の中途半端なリアリズムにうっとうしさを感じていた僕は、この『マスク・オブ・ゾロ』に大満足。これこそ冒険活劇。ダグラス・フェアバンクスのサイレント時代から綿々と続く「ゾロ」の映画が、20世紀末の今になってきちんと現代風に甦っている。

 主演のアントニオ・バンデラスが、二代目ゾロを好演。彼は本物のスペイン人ですから、ゾロを演じるにはうってつけなのです。初代ゾロを演じたアンソニー・ホプキンスも好演してますが、この役は本当言うと「往年のアクションスター」に演じてほしかった。でも今のハリウッドには、貴族の気品を演じられる60歳前後の元アクションスターがいないんだよね。ホプキンスはアクション場面に弱さを感じますが、貴族の威厳を感じさせる点でそれを補ってました。エレナ役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズは、ダイアン・レインを若くしたような風貌で、僕は結構好みです。彼女とゾロが納屋の中で一騎打ちをするところは、この映画屈指の名場面でしょう。

 この映画の最後に登場する二代目ゾロの子供ホアキン・ムリエッタは、1919年に原作者ジョンストン・マッカリーが「ゾロ」を書く際にモデルにした実在の人物。こうして物語は虚構の世界から現実の世界に入り込み、それがまた虚構のヒーローを生み出すのです。ああ楽しい映画だった。これはぜひ、ヒットしてほしいぞ。

(原題:THE MASK OF ZORRO)


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