HeavenZ.

1998/07/06 ユニジャパン試写室
加山雄三の次男・山下徹大がDJを演じる青春ドラマだが……。
久しぶりに死ぬほど退屈させられた映画。by K. Hattori


 『ジャンクフード』で好演していた鬼丸や、『ねじ式』で杉作J太郎におっぱいモミモミされていたつぐみが出演し、ゲストで白竜と大杉漣が顔を出すということで、観る前はかなり期待していたのですが……。久々に期待を大きく裏切ってくれる映画だった。期待した鬼丸とつぐみさえ生き生きとしてれば、少しは許せたんだけど、この映画にはそうした最低限のものさえなかった。最大の問題は、主人公のDJテツを演じる山下徹大に魅力がないこと。主役のキャラさえ立っていれば、映画なんて何とか格好がつくものですが、この映画のテツは、喧嘩っ早くて女に不誠実なただのチンピラです。才能のあるDJという役柄なのに、肝心のクラブでのDJぶりがあまり格好よく描けていないのは致命的だった。

 物語の中心人物は3人。テツのライバルになる天才型のDJリョウスケは、病んだ精神を音楽で癒すことで生きていられる、極端に繊細な感性の持ち主です。演じているのは雅楽師の東儀秀樹。リョウスケの恋人であり、ラジオ局のディレクターとしてテツに接近して行くミサキ(関谷理香)は、タイプの違うふたりの男の間で揺れ動いている。世の中の一切に関心を持たず、ひたすら音楽の中だけに没入して行くリョウスケが生み出す音に、テツは生まれて初めて嫉妬を感じるのですが、リョウスケはそんなテツやミサキにすら心を閉ざし、最後はひっそりと姿を消してしまう。

 監督・脚本は、これが劇場映画デビュー作となる井出良英。僕はこの映画の登場人物の誰にも感情移入できなかったのですが、監督はいったい、何が描きたくてこの映画を作ったのだろうか。試写の前の説明では、この映画が日本で初めてクラブDJを主人公にした映画であり、サントラ盤などにも力を入れているような話をしていたのだが、映画自体は低予算映画の必然で音が悪く、音楽のシーンも少な過ぎると思う。クラブDJを扱った映画なら、昨年末に観たオランダ映画『アムステルダム・ウェイステッド』の方が何倍も面白かった。それに比べると、この映画の音楽シーンなんて、10分の1ぐらいしかない。音楽を扱った映画なら、映画の中の音楽それ自体の力で、観客を「なるほどスゴイぜ」と納得させなくてはならない。なのにこの映画は、テツの音楽も、リョウスケの音楽も、口先で「すごい、すごい」と言うばかりで、ちっとも実物を見せてくれようとしない。

 この映画は一事が万事、その調子なのです。主人公は常に不機嫌そうにイライラしていますが、その理由は描かれていない。つれない態度の主人公に、恋人は「私ってテツの何? セックスフレンド?」と訪ねますが、そもそもこの映画には、まったくセックスの匂いがしないのです。テツとミナ、ミサキとリョウスケ、テツとミサキの間に、肉体関係がもたらす親密さが見えてこない。僕にはこの映画が、心身ともに未熟な中学生が、背伸びして人生について語り合ったり、深刻ぶって議論しているのと同じ匂いを感じてしまいます。


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