リバース

1998/07/01 GAGA試写室
20分間のタイムトラベルが、女刑事の運命を変える。
サスペンス版『恋はデジャ・ブ』。by K. Hattori


 何度も繰り返される同じ時間の繰り返しの中で、ひとりの男が自分自身の人生を見つめ直して行く『恋はデジャ・ブ』というラブ・コメディがありましたが、この『リバース』という映画は、そのサスペンス映画版といったところ。同じ時間の繰り返しに閉じ込められた女刑事が、凶悪な犯罪を未然に防ごうと努力する物語だ。女刑事カレンを演じるのは、モデル出身のカイリー・トラビス。凶悪な殺人者フランクを演じているのは、ジェームズ・ベルーシ。ベルーシは『ブルース・ブラザース2000』に出ずに、こんな映画に出ていやがった。彼は今回演じるような本格的悪役が初めてということですが、普段のコミカルな役どころと打って変わって、迫力満点の悪党ぶり。『ブルース・ブラザース2000』に出たとしても、いつも通りの小悪党を演じて終わりだったと思うので、俳優のキャリアとしてはこちらに出た方が正解なのでしょうね。(などと書きながら、実際に彼がこれら2本の映画で二者択一を迫られたとは、ぜんぜん考えていないんですけどね。撮影時期なんて、ずらせようと思えばずらせないはずないんですから……。)

 『恋はデジャ・ブ』は、理由も分からず同じ1日が何度も何度も繰り返されるという話でしたが、『リバース』には粒子加速器を使ったタイムマシンが登場します。ヒッチハイクした車の運転手が殺人鬼に豹変し、主人公カレンが命からがら逃げ込んだ先が、タイムマシンの設置してある政府の秘密研究所。ここで彼女は偶発的な事故に巻き込まれ、20分前の過去に戻される。時間旅行といっても、実際に行われるのは意識のタイムスリップで、同じ空間にふたりの人間が存在するわけはない。彼女は今後20分間に起こる出来事を正確に知っているというアドバンテージをフルに使い、惨事を未然に防ごうと努力する。ところが、彼女が努力すればするほど、自体は悲惨な方向に向かってしまうのだった……。

 事件の推移を正確に知っているカレンは、自分だけが逃れることなど簡単です。でも彼女には、直前に起こったシカゴの事件で篭城犯との交渉に失敗し、人質6人を犠牲にしてしまったという罪の意識がある。今回だけは、それと同じ失敗を繰り返したくないという自責の念が、彼女を危険な賭けに踏み出させる。このあたりは、事前の伏線がきちんと生きています。彼女は必死に知恵を絞って、事態をうまく収拾させようと努力する。これは因果律の裏をかき、犯人を出し抜こうとする頭脳ゲーム。複雑なパズルを解きほぐして行く面白さがある。

 ミュージック・ビデオ出身のルイス・モーニュ監督は、はったりの利いた画面作りで、単純なアイデアを肉付けし、同じ場面の繰り返しもあの手この手で変化をつけて、緊張感のある映画を作り上げた。唯一の傷は、ジェームズ・ベルーシの持っている拳銃から、際限なく弾が発射されるということかな。カレンの射撃の腕前が極端に下手だというのも、映画の緊張感を殺してしまった。ここにはもう少し合理的な説明が欲しかった。

(原題:RETROACTIVE)


ホームページ
ホームページへ