釣りバカ日誌10

1998/06/24 松竹第1試写室
スーさんが社長を引退して、ビルメンテナンスのアルバイト?
安定した面白さのシリーズ11作目。by K. Hattori


 10年目を迎えた人気シリーズ最新作。途中に1本『釣りバカ日誌S(スペシャル)』があったので、本数としては11本目になる。シリーズがここまで続くと、映画はマンネリと観客の期待に応える義務との板挟みで、どんどん袋小路に追い込まれて行きそうなものですが、この映画の強みは、主人公がハマちゃんとスーさんの二人組という点。どちらか一方から物語を発展させ、時には両者をからめ、応援させ、妨害させ、一致協力させるなど、物語に変化をつけやすいのです。加えてゲスト出演者もからんでくるので、物語のパターンは千変万化する。例えば、前作『釣りバカ日誌9』は西田敏行扮するハマちゃんがメインの話で、今回は三國連太郎扮するスーさんの物語になっている。この調子で行けば、まだまだシリーズは続きそうです。心配の種は三國連太郎の体調ぐらいでしょう。御身体大切に。

 今回の映画も、観客の期待を裏切ることはないはずです。笑えますし、ホロリとするところもありあます。ハマちゃんとスーさんのアドリブ合戦も快調ですし、谷啓もいい味出してます。社長が会社をあけている間に、加藤武ら役員が社長の陰口に興じるという場面も、ハマちゃんスーさんの軽さと対比されていて可笑しい。結局この映画って、お話そのものよりもアンサンブルの妙なんですよね。これは寅さん映画におけるレギュラー陣の会話場面に近いんだけど、寅さんは原則的に脚本で作っている笑い。でも『釣りバカ』シリーズの笑いは、出演している俳優たちの顔ぶれが生み出す、存在そのものの可笑しさなのです。寅さん映画の会話の組み立ては緻密で真似のできないものですが、『釣りバカ』にそうした緻密さは感じられない。でも『釣りバカ』の可笑しさは、脚本からは生まれないものでしょう。これはシリーズが作ってきた財産です。一朝一夕にはできないのです。

 今回の映画は、前半と後半の二部構成。前半では、鈴木建設社長の座を衝動的に退いたスーさんが、ビルメンテナンス会社の社員として再就職し、何の因果か鈴木建設のメンテナンスの仕事をやることになったことで起こるドタバタ劇を描く。この前半は文句なしの面白さ。真相を知っているのがハマちゃんだけというお約束の展開で、スーさんの奇妙な社会勉強ぶりが描かれる。スーさんの相棒になる金子賢が、ハマちゃんの釣り友達という話の流れも、あまり違和感がない。

 ただ話の後半、金子賢と宝生舞のカップルを無事ゴールインさせようとするあたりから、物語が急に失速して行く。主人公たちが不器用なカップルを結び付けるというシリーズのフォーマットを、ただなぞるだけの展開になってしまうのです。これは脚本の弱さです。前半部分で、後半に使える話のネタ(伏線とも言う)をもっとたくさん仕込んでおくべきでした。このあたりについては、前作『釣りバカ日誌9』で、小林稔侍と風吹ジュンのカップルの物語をうまくさばいた経験を生かしてほしかったんだけどな。そこがちょっとだけ残念でした。


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