愚か者
傷だらけの天使

1998/06/11 シネ・ヴィヴァン六本木
阪本順次監督自身の手による『傷だらけの天使』外伝。
鈴木一真のカッチョよさにしびれる。by K. Hattori


 昨年春、松竹シネマ・ジャパネスクの第1弾作品として公開された『傷だらけの天使』のプレ・ストーリー。豊川悦司扮する私立探偵の弟分だった、石井久こと真木蔵人がトヨエツに出会う前の物語だ。主演は前作と同じ真木蔵人。ケンカっ早くてどんな仕事も長続きしないヒサシが、偶然知合った主婦から、家出した息子の行方を捜す依頼を受ける。この息子というのが、鈴木一真扮するマサルなのだが、当然「お母さんが捜してますから、家に帰りましょう」なんて説得が通じる相手ではない。ヒサシはマサルに、逆に引きづり回されるようになる。このあたりは、結局のところ優柔不断なヒサシの性格によるものです。こうしたキャラクターの基本設定は、一応前作『傷だらけの天使』を踏襲している。

 この映画がどういった経緯で出来上がったものかは知りませんが、中心になるのが真木蔵人だけではちょっと弱いような気もしました。鈴木一真は素行がミステリアスすぎて、真木蔵人とガッチリ組んで物語を進めて行くことができない。前作ではトヨエツもいたし、子供もいたし、原田知世もいましたからね……。それに、『傷だらけの天使』の真木蔵人は基本的に脇役だったので、それを主役に持ってくるには、もう少し工夫が必要だったかもしれません。キャラクターは十分に掘り下げてあるのだから、あとは彼が動きだすための動機に、十分な理由があればそれでよかった。この映画では彼の動機を 「人のよさ」という、性格に結びつけていますが、それプラス、外面的な動機にもっと強いものが欲しかった。

 この映画の隠されたテーマは、「母親と息子」というものだろう。主人公ヒサシは、行方不明の息子を探しながら、自分自身の両親、特に母親との関係を見つめなおして行く。この映画では物語より人物が前に立っている印象があるのですが、ひょっとしたら主人公より強いキャラクターに仕上がっているのが、大楠道代扮する万引き常習主婦でしょう。夫役の大杉漣にぶん殴られても、少しもひるまない。この役が、物語の進行にはからんでこないのが残念です。この人物に限らず、ものすごく魅力的な人物に設定されているのに、ちっとも物語にからんでこない人が多い映画です。これで物語にスピード感があれば、すごい傑作になったかもしれないのに。阪本監督が初めて東京でロケした映画ということで、少し遠慮してしまったのでしょうか。

 鈴木一真は今までにも『不機嫌な果実』『冷たい血』『女刑事RIKO』など、何本かの映画で顔を見ていますが、今回の役はカッコよかった。地下駐車場で警備員や警官ともみ合っているヒサシを助けるため、ナイフを握り締めて全力疾走するシーンは、感動的ですらあります。今まではどうも中性的だったり病的だったりする役が多かったのですが、この人はもっとマッチョな役も演じられる人ですね。今まではモデル出身という経歴だけが取り沙汰され、役者としてはイマイチ感がぬぐえなかったのですが、今回ようやく「役者」になりました。


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