グラン・ブルー
(オリジナル・バージョン)

1998/06/09 シネスイッチ銀座
フランスで公開されたオリジナル・バージョンが日本初公開。
ジャン=マルク・バールの笑顔が素敵。by K. Hattori


 この映画は最初、2時間ジャストに編集された『グレート・ブルー』が日本で公開され、その後「完全版」と称する2時間46分の『グラン・ブルー』が公開されました。今回、作品誕生10年を記念して日本で公開されるのは、最初にフランスで公開された2時間18分のオリジナル・バージョン。最初の『グレート・ブルー』は海外興行用のカット版です。アメリカでは映画を何がなんでも2時間に収めないと、劇場が嫌がって映画を買ってくれないのです。そんなわけで、3時間27分の『七人の侍』も、2時間55分の『ニュー・シネマ・パラダイス』も、2時間16分の『Shall we ダンス?』も、強引に2時間に縮めてしまう。『グレート・ブルー』も、そうしてできた2時間バージョンなのです。

 前回公開された「完全版」は、ベッソン監督が映画を最初に編集したバージョンらしい。その後、無駄を省いて磨きに磨いたのが、今回日本で初めて公開されるオリジナル・バージョンというわけです。じつは監督自身、この版が一番気に入っているんだそうな。「完全版」は、本人が観ても長いと感じるとか……。それをわざわざ公開したのは、「1分でも長く映画を観ていたい」というファンに対するサービスだったのかもね。

 『フィフス・エレメント』で白痴ぶりを天下にさらしたリュック・ベッソン監督ですが、この映画も話自体は単純明解で、『フィフス・エレメント』や『タクシー』に比べて特別高級なわけじゃない。映画は高級品に仕上がってますが、これは絵面の美しさに依るところが大ですね。地中海各地の美しい風景と、水中撮影の素晴らしさは、まさに「1分でも長く映画を観ていたい」と思わせるものがあります。実際それをやってしまったのが、『グラン・ブルー(完全版)』であり、水中撮影だけで作られた『アトランティス』なのですが……。

 この映画には女性ファンが多いようですが、僕にはその理由がよくわからない。この映画って、すごく男性中心の話ですよ。「男には男にしかわからない世界があるのである」「女は黙って男を送り出すのである」「女には子供を産む特権があるのである」「男と女は永久にわかり合えないのである」「それでも男と女は愛し合うのである」。平たく言えば、「男の仕事に女は口を出すな」ってことです。男のわがままを、ひどくロマンチックに描いているのが『グラン・ブルー』ではないのか。それに女性が共鳴してくれるのだとしたら、男にとって、これほど都合のいいお話はない。

 もちろんこの映画には、「男は仕事、女は家庭」といった性役割分担が描かれているわけではないし、女性に何かを求めているわけではない。むしろ「女には何も期待しない」「いざとなったら、女には何もできない」ということを描いている。それがこの映画を作った時の、ベッソンの気持ちだったのでしょう。もっともこうした女性観は、『ニキータ』で大きく変わるんですけどね。『ニキータ』では男女の立場が逆転しますから……。

(原題:LE GRAND BLEU / VERSION ORIGINALE)


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