原色パリ図鑑

1998/06/04 TCC試写室
パリ下町のユダヤ人街を舞台にした、最高に面白い人間喜劇。
登場人物全員が大好きになる映画です。by K. Hattori


 無職で一文無し。食うや食わずの生活をしていた青年エディは、たまたまユダヤ人に間違えられたことから、「同胞の苦境は放っておけない」というユダヤ人服地商バンザカンのもとで働くことになった。パリのサンティエ地区は、衣料品の問屋や工場が並ぶ街であると同時に、パリ一番のユダヤ人街でもある。エディはユダヤ人でもユダヤ教徒でもないのだが、本来の身分を隠して、ユダヤ人たちの中でめきめきと頭角を現して行く。そんな彼が一目惚れした相手は、バンザカン社長の娘サンドラだ。はたしてエディは、無事にサンドラのハートを射止めることが出来るのだろうか……。宗教の問題は大丈夫か?

 パリのユダヤ人街を描いた映画ということで、つい先日公開されていた『ア・ラ・モード』をすぐに連想した。どちらも、非ユダヤ人がユダヤ人社会の中に飛び込み、社会的な成功を遂げる物語だ。『ア・ラ・モード』は少年を主人公にしたファンタジックな物語だったけれど、この『原色パリ図鑑』は大人の男女が織り成す人間ドラマを描くリアルな日常の物語。何も予備知識がないままユダヤ人社会に飛び込んだ主人公(何しろ彼は「ダビデの星」すら知らなかった)が、偽ユダヤ人を演じるために四苦八苦する様子を通し、ユダヤ人の日常をくっきりと浮かび上がらせる。いろいろとしきたりの多いユダヤ人の生活が、決して不自由なものでも堅苦しいものでもないことが、この映画からは伝わってくる。主人公が安息日の晩餐に招かれ、そこで頓珍漢な反応を見せる場面の面白いこと。彼の無作法ぶりに驚きながらも、それを決してとがめだてはしない、ユダヤ人一家の優しいこと。

 無一文の主人公が大会社の社長にまでのし上がって行くサクセス・ストーリーを、友情と恋をからめながら描いている。時間経過がやや駆け足の印象もあるが、山あり谷あり、波瀾万丈の物語は見飽きない。登場人物たちが、全員魅力的な人物に仕上がっているのもよい。嫌な奴は登場するが決定的な悪人は出てこない映画だが、人物像のめりはりが利いているので、それに物足りなさを感じることはないだろう。

 主人公エディ役のリシャール・アンコニナは僕には馴染みのない顔でしたが、ぼんやりした印象に見えながらも、個性の強い他の人物に負けない存在感を出してます。ただ、もうちょっと若い俳優をキャスティングしてもいいかと思うけど……。社長を演じているのは、名優リシャール・ボーランジェ。登場場面は少ないけど、この道一筋40年の頑固オヤジぶりが単なる時代遅れに見えず、むしろ気品が感じられます。社長の娘サンドラを演じるのは、『私家版』で主人公の恋人とその姪の二役を演じたアミラ・カサール。美人なんだけど、前歯に少し隙間があるのが特徴。友人のガールフレンド役で、『サム・サフィ』オーレ・アッティカが登場しているのも懐かしい。彼女の恋人ドーブ役の、ヴァンサン・エルバズもいい男だなぁ……。監督のトマ・ジルはこれが長編3作目ですが、日本には初登場。注目すべき監督と作品です。

(原題:LA VERITE SI JE MENS!)


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