まひるのほし

1998/05/26 ユニジャパン試写室
障害者のアート作品とその作家たちを追った記録映画。
監督は『阿賀に生きる』の佐藤真。by K. Hattori


 『阿賀に生きる』の佐藤真監督が、6年ぶりに撮ったドキュメンタリー映画。知的障害を持つ人たちの生み出すアート作品という、一般にはあまりなじみのない世界を取り上げている。もっとも、日本じゃ「アート」というもの自体が、一般の人から見ると少し特殊な世界なんだけどね。1時間33分の映画の中で、取り上げられている作家たちは7人。それぞれ人柄も作風も違う、文字どおりひと癖もふた癖もあるアーティストばかり。7人の中でも大きく扱われているのは3人にて、植物の絵ばかり描いている寡黙な舛次崇、信楽で不思議な陶芸作品を作る「なさけない」おじさん伊藤喜彦、独特の角張った字で手紙を書きつづけた「シゲちゃん」こと西尾繁。作られる作品に対する評価というのは別として、この3人のキャラクターはやっぱりすごく面白い。

 映画のベースラインを作っているのは、シュウちゃんこと舛次崇でしょう。ほとんど何もしゃべらないのですが、黙々と作品を作り上げて行く姿は神々しいほどです。黒や茶色のチョークを握り締め、画用紙を少しずつ埋め尽くして行く。描いては指でこすり、黒くつぶれた画面を消しゴムで白く削り出し、やがて紙の上には、堂々たる植物のフォルムが生み出されてくるのです。なかば恍惚と「描く」という行為に没頭している姿は、チベット仏教の僧侶たちが、砂曼荼羅を作っている時の表情に似ているかもしれない。真面目な話、何かがとりついているような感じさえ受けます。

 陶芸家の伊藤喜彦は、口癖が「なさけない」で、朝の挨拶も「いや、なさけない」、粘土をこねていても「なさけないわ」というオジサン。そのたたずまいには、独特の味わいがあります。結構年配なのですが、個展会場を訪れた女子高生(?)に、はにかみながら自分の作品を手渡したりする可愛いところがある。

 「シゲちゃん」こと西尾繁は、作品もユニークだし、人物もユニーク。ある女性に毎日書きつづけた手紙をつなげて掲示してみたり、ハガキ大のカードに水着の種類をいくつも書いたものを並べたりという、現代アートを作る人なのです。本人はアートをやっている自覚があるかどうか疑問だけど、やってることと出来上がったものは、やはりどうしようもなくアーティスティックに見えるんだよね。シゲちゃんは、映画の中でも一番しゃべっている人物。たぶん映画に登場する全台詞のうちの、四半分ぐらいはしゃべっているのではないだろうか。

 アーティストというのは、創作行為がその人の人格や生活と分かちがたく結びついている人たちです。作られたものの値段や価値は、後から別の人たちが考えること。この映画に登場する人たちは、自分の意志やイメージを、絵や陶芸や膨大なメモという形でしか表現できないのです。彼らは「日曜日の趣味」で絵を描いているわけではない。そういう意味で、彼らは間違いなくアーティストなのです。彼らが一心不乱に作品を作っている様子を見ているうちに、僕もなんだか絵が描きたくなりました。


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