ディープ・インパクト

1998/05/25 イマジカ第1試写室
発見された巨大彗星は地球との衝突コースに……。
パニック描写がおとなしすぎる。by K. Hattori


 巨大な隕石が地球に激突するという人類存亡の危機を、最新の特撮を駆使して描く、究極の天災パニック映画。隕石の落下で大洪水が起こるというクライマックスはさすがに迫力がありますが、他の場面はどうも生ぬるい印象しか残りません。『ピースメーカー』で骨太な活劇を見せてくれたミミ・レダー監督も、相手が隕石では演出のしようがなかったのかな。豪華キャストを使った2時間1分の大作も、やや大味に感じました。

 映画の後半にどうしても泣いてしまう感動的な場面がありますが、これがどんな場面かを解説するのはネタバレもいいところなので、言わぬが花。クライマックスの洪水シーンも、CGやミニチュアとの合成を使った映像スペクタクルなので、言葉で説明してもしかたがない。というわけで、今回は主に映画の前半について書きます。

 映画の導入部は少し凝った作りになっていますが、僕は「凝りすぎで回りくどい」という印象を受けました。映画の観客は、これが「巨大隕石が地球に激突する話」であることをあらかじめ知っています。ですから、こういうのは単刀直入にスパッと核心に入ってしまった方が面倒くさくない。ニュース・レポーターに流された内閣秘書からのスキャンダル暴露が隕石に結びついて行くアイデアはユニークですが、この導入部を持ってくるなら、スキャンダルの中身は「セックス・スキャンダル」ではない方がよかったと思う。女性関連の醜聞を暴くレポーターなんて、報道の意義や目的はともかくとして、品性下劣な印象を観客に与えてしまいます。

 隕石の接近が公表された後のパニック描写も、圧倒的に不足していると思いました。人類が迎える未曾有の危機に際しては、全地球規模でのパニックが起こり、略奪・放火・暴行事件などが頻発してもおかしくない。映画にも、暴徒が町を襲った「痕跡」は描かれているのですが、暴徒そのものは描かれていない。また、人類滅亡のニュースを聞いて絶望するのではなく、逆に喜ぶ人たちがいるであろうことも、この映画からはすっぽりと抜け落ちている。彗星で地球が滅亡することは、終末思想を説く宗教家たちにとって、自分たちの信仰が正しかったことの証明になります。例えば多くの敬謙なキリスト教徒たちにとって、天からの火によって人類の大部分が死滅することは、黙示録に描かれた千年王国の到来を想起させる。彗星は災いではなく、大いなる福音なのです。

 『インデペンデンス・デイ』は、その大仰なアメリカ中心主義にうんざりさせられる部分もありましたが、『ディープ・インパクト』はそれ以上にアメリカ中心の映画です。何しろ、アメリカ以外の国が一切登場しないのだからすごい。(ニュース映像で少し流れる程度。)人類滅亡を避けるため、アメリカが自国民100万人をシェルターに避難させるという話も、なんとなく気味が悪かった。人類がひとり残さず滅ぶなら、人間は案外平静でいられると思う。でも、隣の人が生き残って、自分だけが死ぬのは絶えられない。そんなもんです……。

(原題:DEEP IMPACT)


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