SAMURAI FICTION

1998/05/22 シネカノン試写室
MTVやCMのディレクター中野裕之の映画監督デビュー作。
嬉しいかな、正真正銘の時代劇です。by K. Hattori


 ミュージックビデオやCMのディレクターとして有名らしい(僕は知らなかった)中野裕之の、映画監督デビュー作。タイトルからもわかるように、これは時代劇、ちゃんばら映画なのです。

 今から三百年ほど昔。十万石の大名長島藩から、将軍より拝領の宝刀が持ち去られた。剣術指南役だった風祭という男が、同僚の側近藩士を殺害した上で逃走したのだ。血気にはやる若侍・犬飼平四郎は、この知らせを聞いて風祭を追う旅に出る。同行するのは幼なじみの黒沢と鈴木、そして、平四郎の父の命によって密かに放たれた、隼と赤影というふたりの忍者。やがて風祭に追いついた平四郎たちだが、凄腕の風祭には歯が立たず、黒沢は即死、鈴木は軽傷、そして平四郎も重傷を負う。殺されかけた平四郎を助けたのは、溝口と名乗る浪人。やがて目を覚ました平四郎は、溝口の娘、小春の看病もあって、みるみるうちに体力を回復する……。

 監督がかなりの時代劇ファンであることはすぐにわかる。画面を基本的にはモノクロにし、キーポイントだけをカラーにするという演出は黒澤映画へのオマージュかな。主人公たち「三ばか」が街道を突っ走る場面は、勝新主演の『まらそん侍』を彷彿とさせる面白さだし、3人が一休みする場所は『隠し砦の三悪人』から『乱』まで、黒澤映画には頻繁に登場する御殿場ではないか。風祭の立ち回りを真上から撮影したカットは、『眠狂四郎』のスチルに同じようなアングルがあった。こうした時代劇のエッセンスを詰め込みながら、この映画は高級な「時代劇ごっこ」に終わっていると思う。

 直前に『暗黒街/若き英雄(ヒーロー)伝説』の大ちゃんばらを観ていたせいで、この映画の立ち回りに迫力不足を感じたこともあるが、それ以上に問題なのは、この映画が何をやろうとしているのか不鮮明な点。この映画は、シリアスな路線を目指しているのか、それともややコミカルなセンを狙っているのかが不明。最初はユーモア路線なのかと思ったが、中盤以降ユーモアの鮮度が低下してどうにも笑えなくなってしまった。敵役の風祭が、どんな目的で刀を持ち去ったのか、その理由がよくわからないのはまずかった。持ち去った当初は「原因不明」でも、それがミステリー要素として物語を引っ張って行く。だが中盤以降はその理由を明らかにして、刀を間にはさんだ、追うものと追われるものの葛藤を見せてくれなくては話が進まない。

 ユーモア時代劇には、前記した『まらそん侍』もあるし、山中貞夫の傑作『丹下左膳余話・百萬両の壷』もあるし、黒澤の『椿三十郎』だってある。こうした作品を参考にすれば、もっともっと面白い場面を作ることだってできたと思うけどな。例えば溝口の道場破りなど、同様の場面がある『百萬両の壷』に比べるとだいぶ落ちる。

 今の時代に時代劇を作るという意欲は買いたいし、ところどころに「おっ」と思わせる部分もある。これだけに終わらず、第2弾、第3弾と撮り続けてほしいものだ。


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