ブギーナイツ

1998/05/14 GAGA試写室
ポルノ業界を舞台にした人間ドラマ。これは傑作です。
公開は少し先になりますが大推薦。by K. Hattori


 バート・レイノルズとジュリアン・ムーアが今年のアカデミー賞で助演賞に、監督・脚本のポール・トーマス・アンダーソンが脚本賞にノミネートされた話題作。'70年代末から'80年代半ばにかけての、アメリカ・ポルノ映画業界を舞台にした青春映画だ。ポルノ業界が舞台にはなっているが、エロチックな場面はあまり期待しないほうがいい。撮影場面などは当然映画に登場するが、それ自体をウリにしている映画ではないのだ。この映画にもっとも近い映画は、スコセッシの『カジノ』やミロス・フォアマンの『ラリー・フリント』だろう。麻薬とセックスと社会モラルに反したビジネスに明け暮れる人々を描きつつ、その語り口は極めて真面目なもの。人間の欲望がすべてむき出しになる世界の住人たちを通して、人間の中にある普遍的な姿を描こうとしている。

 主人公は、デカマラと絶倫にものを言わせてポルノ映画の大スターになるエディ。高校時代にバイト先のクラブでポルノ映画の監督にスカウトされ、家庭でのゴタゴタから逃れるように、監督のもとに飛び込んで行く。ダーク・ディグラーという芸名でデビューした彼は、初主演作から一大センセーションを巻き起こし、わずか2年たらずの間に、とんとん拍子に大スターへの階段を駆け登り頂点を極める。しかし'80年代に入って、ポルノ業界が映画からビデオへと主流を移しはじめるのと時を同じくして、主人公はドラッグに溺れて自制心を失い、お決まりの転落コースをまっさかさま。「座して食らえば山も空し」の言葉通り、スター時代に手に入れた財産はあっという間にドラッグに化けてしまう。あとに残ったのは、無一文のジャンキーだけ。

 ポルノ監督を演じたバート・レイノルズも良かったけれど、驚いたのは、ポルノ女優アンバーを演じたジュリアン・ムーアです。『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』ではぱっとしない古生物学者を演じてましたが、今回は貫禄十分に物語を引っ張って行く。メリル・ストリープを彷彿とさせる名演技です。今までは中途半端な「お嬢さん女優」でしたが、この映画をきっかけに、演技派の女優に変わって行くことでしょう。

 ポルノ業界は、そこで生活する本人たちにとっては誇るべき「王国」ですが、世間からはやはり蔑みの目で見られている。ポルノ男優を引退した男が銀行に行っても「倫理基準」を楯に金を貸してくれないし、子供の親権を争えば「教育に悪影響を及ぼす」と言われて一切の権利を取り上げられてしまう。ポルノ業界という小さな世界の中では王様のように振る舞えても、それは「小さな世界」の中でだけ保証された自尊心を満足させるものでしかない。ポルノ業界に限らず、僕たちは自分の属する「小さな世界」で、ちっぽけな自尊心を頼りに生きている。この映画はポルノ業界という特殊な分野を描きながら、観客ひとりひとりも同じく「小さな世界」の住人であることを指摘するのです。そこがすごい。2時間35分の大作ですが、時間はあっという間に過ぎてしまった。

(原題:Boogie Nights)


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