BLUES HARP

1998/05/14 ユニジャパン試写室
やくざ映画の美学を「同性愛」として描く異色作。
監督は三池崇史。注目作です。by K. Hattori


 日本の若手監督の中では、望月六郎監督と並んで、今もっとも注目を浴びている三池崇史監督の最新作。三池監督は、今年の夏にSPEED主演の『アンドロメディア』、秋には『岸和田少年愚連隊・望郷』が公開される予定になっている。これらは共に松竹公開なので、都内単館ではなく、ある程度の規模で全国公開されるはず。今年は三池監督の名前が、一躍メジャーになる年かもしれません。もっとも僕自身は、『岸和田少年愚連隊・血煙り純情篇』や『中国の鳥人』しか観ていないので、この監督がなぜそんなにウケているのか、その理由がもうひとつよくわからない。この程度の映画が撮れたからと言って、特別チヤホヤすることもないと思うけどな。

 この『BLUES HARP』は悪い映画ではないけれど、もっと粘っこく撮れば、ギラギラと異様な光を放つ傑作になったと思う。異色のゲイムービーとして、カルト的な人気が出たかもしれない。でも、そうなり切れなかったのが残念です。この物語でキャラクターを掘り下げて行けば、ゲイムービーにしかなりようがないと思うんだけど、三池監督の演出は、そのあたりをサラリと通過して、ただ単にストーリーを追うことに集中してしまった。

 自分の親分を殺して組の跡目を相続しようと考えている若いヤクザ・健二が、別件でトラブルに巻き込まれた自分を助けてくれた青年・忠治に恋をする。オトコが売り物のヤクザ稼業にありながら、じつは健二はゲイなのです。ところが、組の跡目相続のための遺言状すり替えには、組長の女房の手助けが必要になる。そこでこの若いヤクザは組長の女房をセックスで支配し、自分の意のままに操ろうとする。自分の身体にしみついた女の臭いを洗い落とすため、しつこくシャワーを浴びつづける健二。ところが彼の弟分のヤクザが、じつは健二のことを好きだったから話がややこしくなる。忠治にはガールフレンドがいるのに、健二は忠治が好きで、健二の弟分はそんな健二の気持ちを察知して焼きもちを妬く。

 やくざ映画(仁侠映画)の人間関係の中に、秘められた同性愛の匂いを感じる人たちは多いようです。この映画は、今までのやくざ映画では巧妙に隠されていた同性愛感情を、直接的に描いている点が特にユニーク。忠治とトキコの関係、組長の女房と健二の関係、組長と女房の関係という「男女関係」だけでは、この映画は面白くない。健二の忠治への想い、健二の舎弟分の健二への想いなどが話の心棒になってこそ、この映画は大きく動きはじめるのです。ところが、この映画ではそれが弱い。脚本にはきちんと描かれているので、通り一遍の描写はあるし、それを観れば何が起こっているかはきちんと理解できる。わかりにくいところはまったくない。でも、そこから「切なさ」や「情念」の匂いが漂ってこないのは、監督が男同士の恋愛感情に肩入れできていないからだと思う。ゲイセックスの場面があるわけではなく、ここにあるのは、あくまでもプラトニックな感情。もっとデリケートに扱ってほしかったと思います。


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