Jam

1998/05/11 テアトル新宿
台北を舞台に描く、ユーモラスなラブストーリー。
リトルモアMOVIESの第2弾。by K. Hattori


 現在テアトル新宿でレイト公開されている『プープーの物語』に続く、リトルモアMOVIES第2弾。僕は『プープーの物語』を観て「すごい、ぜんぜん面白くないぞ!」とビックリしたので、今回の映画もぜんぜん期待してませんでした。夜9時過ぎから始まる試写に大勢で行列して、挙げ句の果てにつまらない映画をまた観せられたらどうしようかと、最初は試写に行くこと自体を随分悩んだのですが、今回の映画は大当たり。これは面白いよ。今回は台湾の新人監督のデビュー作ですが、最近観たアジア映画の中でも出色のできです。監督・脚本のチェン・イーウェン(陳以文)は、エドワード・ヤン監督のもとでスタッフや役者として修行した人物。新人監督のデビュー作としては、演出がしっかりしているので驚いてしまいました。余裕が感じられるんだよね。

 この映画の構成に一番似ている映画は、タランティーノの『パルプ・フィクション』です。(車を洗うエピソードまで共通している!)全部で4章からなる物語の中を、複数の登場人物たちが行きつ戻りつして大きな物語を作って行く。中心になるのは、少年と少女のこそ泥カップルですが、その他にも、映画製作プロダクションの社長と女性プロデューサー、脚本作りに悩む青年監督、青年ヤクザと恋人、ヤクザの弟分など、様々な人物が登場しては消えて行く。時間進行はエピソードごとに独立し、ひとつのエピソードに区切りがつくと、少し戻ってまた同じエピソードを別の視点から語って行く。文字で書くとややこしそうですが、『パルプ・フィクション』がそうだったように、この映画も観てしまえば一目瞭然。どこにも難しいところはありません。

 視点が次々移動するので、大きなドラマのうねりを感じることはできませんが、逆に、ショートストーリーが連なったオムニバス映画のような面白さがある。登場人物はどれもよく練り上げられたキャラクターになっていて、薄っぺらな人物像が見当たらない。全員が、映画の中で生き生きと活動しているのです。

 全エピソードを通して登場するカイとジャジャが実質的に物語を引っ張って行く主人公ですが、演じているツァイ・シンホン(蔡信弘)とジューン・ツァイ(六月)のふたりは、この映画が実質的なデビュー作。ツァイ・シンホンは山本太郎に風貌がそっくり。ヒロインのジューン・ツァイには少年ぽい雰囲気があり、あまり色気を感じさせません。彼女がカイの気を引こうと、精一杯おしゃれする場面がかわいい。男の子でも通るような感じだと思っていたら、映画の後の舞台挨拶に坊主頭で登場して少しびっくり。なんでも台湾のテレビで、頭をツルツルに剃って「一休さん」を演じているのだとか。

 ヤクザのホアが恋人のウェイと別れる場面が、じつに切なくてよかった。映画の中には、映画プロデューサーのシュエが社長と別れる場面もありましたが、それとの対比が面白いんです。シリアスな面とユーモラスな面、どちらも併せ持った映画だと思いました。

(原題:果醤)


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