プライド
運命の瞬間(とき)

1998/05/11 東映第1試写室
東京裁判でA級戦犯として裁かれた東條英機の最後の戦い。
文句なしの力作だが、脚本に不備がある。by K. Hattori


 A級戦犯として処刑された東條英機と、東京裁判でただひとり被告人全員無罪を主張したインドのパール判事を中心に、勝者が敗者を裁いた東京裁判の不備や欺まん、被告人たちが最後まで守り通そうとしたプライドを描く、2時間41分の大作映画です。今年は東條たちが処刑されてちょうど50年という年にあたりますし、「自由主義史観研究会」や「新しい歴史教科書を作る会」など、日本の近現代史を見直そうという気運が高まっている中ではタイムリーな企画だと思います。当然、こうした映画に不快感を持つ人たちもいるでしょうが、しばしば登場する「東京裁判史観」とか「大東亜戦争は自衛戦争だった」という意見が、どのような論拠によるものなのかが、この映画を観るとすっきりとわかる仕掛けになっている。あとはそれを受け入れるか、反証材料を探して批判的な目で観るべきかを考えればいいことです。

 2時間半以上の長尺を一気に観せる演出力に感服しました。東條英機役の津川雅彦の目玉をむいた熱演は、普段なら鼻について嫌なものですが、今回は役柄に合っていてよかったと思う。東條と対決するキーナン検事役のスコット・ウィルソン、ウェッブ裁判長役のロニー・コックスなど、ハリウッドから招いた役者たちの好演もあり、法廷ドラマとしてはじつに見応えがあります。クライマックスで、東條英機がキーナン検事の追求を次々論破して行く場面は迫力満点でした。他にも、7千万円かけて作られた、軍事法廷の大セットの迫力、ニュース映像など過去の映像資料を廃してゼロから作った焼け跡の風景、記録映画を何度も観て入念な役作りで挑んだ役者たちのソックリさん演技など、見どころは満載。日本映画で外国人の役者を使うと、芝居の付け方もさることながら、絵作りが「邦画」独特のノッペリした画面になって安っぽく見えがちなのですが、この映画はそうしたノッペリ感がなく、全体にアンバー調に色を統一して重厚な絵作りをしていました。監督は『花いちもんめ』『誘拐報道』の伊藤俊也、撮影は加藤雄大。

 力作ではありますが、映画として満点を上げられるものではないのが残念。もともと「パール判事とその判決文を映画に」という企画からスタートしたものらしいのですが、この映画では肝心のパール判事がただの付け足しになっている。何よりも、東条英機とパール判事に、直接的な交流がなかったのが痛い。このふたりを主役にするのは、最初から無理があったと思います。これでは、東京裁判に不服のある人たちが、自説を補強するためにパール判事を引き合いに出しているような印象を与えてしまう。インド独立運動にからめ、インパール作戦を位置づけるのは間違いではないけれど、兵士たちが「大東亜主義」という大義のために死んでいったという解釈はうなずけない。大鶴義丹演ずる兵士はそうかもしれないけど、ほとんどの兵士たちは、命令でインパールまで遠征し、わけもわからず無駄死にしてしまったんじゃないのか? この映画には、批判的視点が欠けてるぞ。


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