のど自慢

1998/05/07 徳間ホール
人気番組「のど自慢」に参加する人々が抱える人生模様。
これは文句なしに面白い。ヒットしてくれ。by K. Hattori


 日曜昼間の定番番組「NHKのど自慢」に参加する人々の人生模様と、番組制作の裏側を描くファミリー向けの人情喜劇。シネカノン製作で、監督は井筒和幸、脚本は井筒監督と安倍照男の共作。出演者は、売れない演歌歌手・赤城麗子に室井滋、父親に小林稔侍、マネージャー兼プロダクション社長に尾藤イサオ。焼き鳥屋としてゼロからスタートしようとするお父さん・荒木圭介に大友康平、その妻に松田美由紀。普通の女子高生・高橋里香に伊藤歩、その母にりりィ、姉に初瀬かおる。カラオケ好きのタクシー運転手に竹中直人。番組の司会者には、かつて実際に「のど自慢」で長年司会を務め、番組の顔だった金子辰雄アナウンサー本人が出演。ディレクター役には田口浩正。審査委員長にはベテランの岸辺一徳。他にも「えっ、この人が!」という豪華な出演陣。これらが一丸となって映画『のど自慢』を盛り上げ、時には大いに笑わせ、時にホロリとさせてくれる。

 映画の中には一言も「NHK」という言葉が出てきませんが、これが紛れもなく「NHKのど自慢」だというのが面白い。放送を3日後に控えて、小さな街がザワザワと沸き立つ様子がよく描けているし、放送前日の予選と面接の様子や、当日の収録風景と審査風景など、普段はテレビに映らない裏側をのぞける面白さがあります。もっともこの映画は「のど自慢」の舞台裏が主役ではなく、そこに参加する人々の日常生活が主役の映画。参加者の数だけあるエピソードをより縄式にまとめ、「のど自慢」の番組で交差したそれぞれの人生が、また別々の方向に散って行くわけです。参加者それぞれのエピソードに直接の関連はなく、番組を通じて新たな人間関係やドラマが生まれるわけではない。でも、歌うことを通じて参加者たちは誰かに何かを伝えようとし、自分と歌との関係を問い直してゆく。舞台の上に、それぞれの人生が凝縮されるのです。これは見応えがありました。

 ホームドラマとしても高水準の映画で、どのエピソードも粒ぞろいの面白さ。キャラクターもよく描き込まれている。大友康平演ずる明るいお父さんは、どこかに絶対いそうなキャラクターだし、松田美由紀のお母さんぶりは『元気の神様』より何倍もよかった。伊藤歩演ずるふてくされた顔の女子高生もリアルだったし、その母親と姉のエピソードも泣かせる。お姉さんがテレビを通じて、妹の歌う「花」を聞く場面も泣けました。室井滋と小林稔侍の父娘関係も、なかなか見せてくれるしなぁ。

 シネカノン配給で9月公開の予定だった映画ですが、今日の話では、公開が来年正月になるとか。ものすごく出来のいい映画なので、できれば東宝や松竹などの全国チェーンで公開してもらいたい。内容的には、大ヒットした周防監督の『Shall we ダンス?』などに引けを取らない作品だと思うし、出演者も豪華なので、売り方次第では商売になると思う。

 尾藤イサオが歌わないと思っていたら、最後にエンディング曲を歌うメンバーに入ってたのかな?


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