安藤組外伝
群狼の系譜

1998/04/17 東映第2試写室
2時間20分を演出力だけで引っ張るベテラン工藤栄一。
物語は弱いが雰囲気のある映画だ。by K. Hattori



 『十三人の刺客』『大殺陣』などで東映時代劇に新風を吹き込み、その後も時代劇ややくざ映画で数々の傑作を撮り上げた工藤栄一監督の最新作。中条きよし主演の低予算やくざ映画ですが、Vシネマ的安直さや粗雑さに流れない重厚なドラマになっています。上映時間2時間20分の長尺を、飽きさせずに芝居で引っ張って行く演出力はさすがです。工藤栄一監督は昭和4年生まれで今年69歳。この作品は映画としては5年ぶりの作品だそうですが、もっと活躍してもいい監督だと思います。

 対立する関西系の暴力団組織に幹部を殺された組に、14年ぶりに出所した主人公が戻ってくる。彼がなぜ刑務所に入ることになったのかは、14年という刑期と、彼を迎える仲間たちの表情だけで語られますが、この省略法はなかなか見事です。主人公は長い刑務所暮らしで、すっかり脂っ気が抜けてます。その男の周囲で、血生臭い構想と、脂っこい欲望のドラマが繰り広げられる。主人公はそれに積極的に関わるでなし、かといって身を引いてしまうでなし、兄弟分や親分への義理と情に引かれるまま、ずるずると渦中に入り込んで行く。この「ずるずる」具合がまことによろしい。彼は企業化した組織になじめず一定の距離を置きながらも、他に行くところがなくて、昔ながらの仲間の近くに寄りついてしまう。

 彼が子持ちの看護婦と親しくなるエピソードは、お話としては新鮮味がまったくないものですが、手垢のついた表現に磨きをかけて手垢を落とせば、こんなにも情感あふれるエピソードに仕上がるのですね。主人公の心の中にある疎外感、欠落感、孤独感を、すべて埋めてくれる存在として、このヒロインが果たす役割は大きい。お互いの心の傷をいたわりながら、求め合い、結ばれるふたりの姿は切ない。人と人との肌から伝わる温もりが、ほんの一時でも心を慰めるのです。それが「一時のものだ」と互いに知りつつ、相手にそれ以上のものを求めずにいられない人間の業。それが悲しいのです。

 2時間20分のうち2時間ぐらいは、演出の確かさで観るものをスクリーンに引き込む。ただしこの手綱は、最後の最後に切れてしまうのだ。これは演出以前に、脚本の粗雑さが噴出したものだと思う。それまで演出の力で押え込んでいた脚本の歪みや無理が、最後にまとめて吹き出したのではなかろうか。例えば、主人公は萩原流行扮する組織内の裏切り者にいつ気づいたのか。復讐する相手が萩原流行に限定され、彼を裏で操っていた関西組織のボスが放置されるのはなぜか。この復讐によって、組織はどれだけのメリットとデメリットを被るのか。それが一切わからないから、主人公が思いつきで萩原流行を射殺したように見えてしまう。大きな伏線として、萩原の舎弟分、金子賢の死があるのだが、これがまったく物語の中で生きていない。左とん平扮する主人公の兄弟分を、もっとキーマンに使う方法だってあると思うんだけどな……。とにかく、演出力だけでは脚本の根本的欠点を救えないという、悪しき見本になってしまった。


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