オースティン・パワーズ

1998/03/30 松竹第1試写室
現代に甦った'60年代のスパイが、地球破壊をたくらむ悪人と戦う。
B級スパイ映画のパロディのパロディ…。by K. Hattori



 '60年代のロンドンでもてもてだった「究極のスパイ」オースティン・パワーズが、世界征服をたくらむ悪の総帥ドクター・イーブルを追いつめるが、イーブルは野望を未来につなぐべく冷凍装置付きのロケットで宇宙に脱出。我らが主人公オースティンも、負けずに冷凍装置で30年後の未来に飛ぶ……。というわけで、冷凍睡眠から目覚めたドクター・イーブルとオースティン・パワーズの死闘が、1997年になって再開するのだ。

 007シリーズをはじめとして、'60年代の世界映画市場を席巻したB級スパイ・コメディ映画の世界を徹底的にパロディにした、今年最高のコメディ映画。もっともB級スパイ映画自体が大仰な本格アクション映画のパロディだし、『オースティン・パワーズ』がパロディにしているのは007映画のパロディ『カジノ・ロワイヤル』だから、この映画は奥が深い。深すぎる! 主演は『ウェインズ・ワールド』の片割れマイク・マイヤーズ。彼はこの映画でパワーズと敵役イーブルの一人二役を演じ、芸達者ぶりを見せ付けている。パワーズとコンビを組み、やがて彼と恋に落ちる英国諜報員にはエリザベス・ハーレーが扮していてすごくカッチョいいぞ!

 B級映画のパロディだが、中身にはすごくお金をかけていることがすぐわかる。映画の冒頭は'60年代のロンドンの風景から始まり、主人公は『ビートルズがやってくる ヤア!ヤア!ヤア!』さながらに町中を追いかけられるのだが、この場面はファッションといい、色彩といい、音楽といい、いかにも「これが'60年代だよ〜ん!」という具合に作ってある。しかもミュージカル仕立て。僕はここだけで参りました。降参です。この導入部だけで、僕は映画の半分は楽しめました。耳の穴の奥の方で、今も「ソウル・ボサノバ」が響いてます。

 映画の方向性としては、『マーズ・アタック!』のスパイ映画版と言えばわかりやすいかも。中身にぎっしりと詰め込まれたアイデアの数々は、ほとんどが昔の映画からの引用らしい。最大の引用は、バート・バカラックだったりするんだけどね。ハリウッドは、結局古典回帰しているんだなぁ……。でもこの映画の偉いところは、映画を単なるノスタルジーにするのではなく、ひとひねりしてちゃんと'90年代の作品にしているところ。これも、『マーズ・アタック!』のティム・バートンと同じです。確かにこの映画には古い映画へのオマージュが見られるけれど、古い作品を知らなくても十分に楽しめる内容を持っている。作り手がそれまで観てきた映画を、きちんと咀嚼し消化しているのでしょう。

 有名人がゲストとして多数出演。前記したバート・バカラックの他にも、トム・アーノルド、キャリー・フィッシャー、ロブ・ロウ、クリスチャン・スレーターなどの姿が見える。どの役も、それぞれの個性を生かした面白い場面に登場しています。アメリカ公開版は89分。ロブ・ロウの出演場面はカットされたようですが、日本公開は95分の海外版。ロブ・ロウも復活してます。

(原題:AUSTIN POWERS)



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