女刑事RIKO
聖母の深き淵

1998/03/19 エースピクチャーズ試写室
子持ちの女刑事が3年前に起きた乳児誘拐事件の真相に挑む。
面白い映画だが、謎解きに一本芯がない。by K. Hattori



 タイトルがぜんぜん駄目ですけど、映画の中身は面白くて水準以上。それもそのはず、この映画は一昨年『[Focus]』で映画ファンをしびれさせた井坂聡監督の第2作目なのです。原作は柴田よしきの「聖母(マドンナ)の深き淵」で、これは「RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠」という作品の続編なのだそうな。Vシネマさながらのダサいタイトルですが、こんなタイトルでも、原作の読者にはわかりやすいものなのでしょう。原作は角川文庫に入っているそうですし、製作は角川書店とエースピクチャーズ。角川は自社出版物の利益になる映画しか作りませんから、ダサかろうと何だろうと、原作がすぐ連想できるタイトルをつけるのでしょう。

 シングルマザーの女刑事が、連続殺人の犯人を追ううちに、3年前に起こった乳児誘拐事件の真相に近づいて行くというミステリーです。ただしこの映画は純然たる謎解きより、警察内部のリアルな描写がウリの「警察もの」という側面が強いし、子供を持つ母親のたくましさを描く「女性映画」という面も持っている。脚本はこれが商用映画デビュー作となる田中利花。謎解き部分をもう少し細部まで詰めておくと、映画に厚味が出たであろうと思うと残念な気もする。例えば犯人のアリバイなど、普通の探偵ドラマであれば当然触れなければならない部分を不問にしているのは疑問です。手垢の付いた謎解きの段取り芝居を避けたのかもしれませんが、その「段取り芝居」をどれだけ噛み砕いて消化できるかが、脚本家としての腕の見せ所ではないでしょうか。

 中盤までは物語の展開にもしまりがあり、充実したキャスティングや、きびきびした演出もあって、かなり面白く観ることが出来た。1時間40分の映画だが、最初の1時間はすごく充実している。ただし、後半はややだれてくるし、物語も解体していってしまう。映画の中に散りばめた物語の断片を、どう始末していいのかわからないまま、だらだらと結末に入って行くような感じです。冗長な場面も目立つようになる。

 主人公・村上緑子を演じた滝沢涼子が、あまり美人でないのがよかった。不倫の恋のはてに子供を産み、ひとりで育てているたくましい母の姿が、それなりにリアルに描けていると思います。途中で「おや?」と思う場面がないわけではないけれど、これは全体から見れば小さな傷かもしれない。その場面というのは、彼女がやくざに監禁暴行されるシーンなんですけどね……。

 この映画は観終わった後に、決定的な不満感がある。それは、すべての事件の発端となった3年前の乳児誘拐事件の真相が、いまひとつよくわからなかったこと。結局、いなくなった赤ん坊は誰がどうしたというのだろうか。ここを曖昧にしたまま映画が終わったのは解せない。曖昧といえば、主人公の恋人の妻が幻影となって主人公を襲う場面も、いまひとつ説明不足だった。あれは過去の事件をフラッシュバックで見せているのか、主人公の罪の意識を象徴したものなのか……。説明不足です。


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