スターシップ・トゥルーパーズ

1998/03/11 ブエナ・ビスタ試写室
ハインラインの「宇宙の戦士」を映画化したらなぜかこうなった。
「戦争ってバカだぞ!」という映画です。by K. Hattori



 ロバート・A・ハインラインの「宇宙の戦士」を、『ロボコップ』『トータル・リコール』のポール・バーホーベンが映画化。原作に登場した強化服(パワードスーツ)が登場しないのは、「機動戦士ガンダム」世代のアニメファンにはちょっと残念かもしれないが、映画を観れば、それが出せなかった理由はよくわかる。強化服を着ちゃうと、兵士ひとりひとりの識別がつかなくなっちゃうし、敵の昆虫軍団と質感の対比がなくなって面白味も半減したと思う。だからこれは、これで正解。

 「ガールフレンドに一目置かれたい」という不純な動機で軍隊に入った若者が、戦争の中で一人前の兵士へと鍛え上げられて行く様子を描いた「軍隊物」ですが、ノリとしては「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」「超時空要塞マクロス」などの和製アニメに近い。たぶんこの映画の製作者たちは、日本のアニメが大好きなのでしょう。宇宙船の描写などは『スター・ウォーズ』というより、絶対に「マクロス」から影響を受けている。

 こうした映画を観て、「好戦的な映画だ」と眉をひそめる良識派は多いことだろう。でもこの映画を、例えば『トップガン』のような映画と同類だとは思ってほしくない。『トップガン』のようなタイプの映画は、軍隊の規律や戦争の厳しさが主人公を「人間的に成長させる」というテーマがあるのですが、『スターシップ・トゥルーパーズ』からはきれいさっぱり「人間的成長」という要素が抜け落ちている。確かにこの映画の主人公たちは、戦争によって強くなる。優柔不断なところが消えて、迷いがなくなる。でもそれは「人間的成長」なのか? それってちょっと違うと思うぞ。主人公たちは兵隊としての能力に磨きをかけただけであって、人間的にどうこうという部分はほとんど描かれていない。むしろそこを、意図的に無視しているのがこの映画です。

 この映画の戦闘シーンは壮絶だし、迫力満点なので一見の価値はある。でもここには爽快感はないし、ヒロイックな目標の達成感もない。あるのは、押し寄せてくる昆虫たちと戦って、どれだけの数の兵隊が生き残るかというサバイバルゲーム。負ければ犬死にで、勝っても嬉しくない戦争場面の数々です。

 僕がこの映画から受けとったテーマは、「戦争ってバカだ!」というもの。一方で残虐な兵士の死を放送しながら、一方で新兵の募集をしているテレビ。戦場に送り込まれた子供たちが短期間で古参兵になり、新兵に向かっていっぱしの口を利いている可笑しさ。戦争遂行国家内部での政治的ゴタゴタ。戦っている相手が、たかだか巨大な昆虫というアホらしさ。ここに描かれているエピソードは、すべて実際の「戦争」の巧妙なパロディになっている。しかし戦争を否定することがタブー視されているアメリカで作られた映画だけに、このパロディは「戦争批判」に到達するスレスレのところで踏みとどまる。同じ「戦争ってバカだ!」をやっても、小林信彦なら「僕たちの好きな戦争」にしちゃうのにね。

(原題:STARSHIP TROOPERS)



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