L. A. コンフィデンシャル

1998/03/10 日本ヘラルド映画試写室
タイプの違う3人の刑事の衝突ぶりが映画最大の見どころ。
それが物語の弱さを十分に補っている。by K. Hattori



 昨年9月に完成披露試写を観たときは「ワーナー配給」でしたが、公開時期が正月から初夏にずれて、配給会社も日本ヘラルド映画になりました。プレスシートがすごく立派なもので、ヘラルドの力の入れかたが伝わってきます。ワーナーの時は両観音4つ折だったのが、今回はB5サイズ16ページの堂々たるパンフレットになっている。公開しないまま日本の倉庫で寝かしている間に、この映画はアメリカで各種の賞を受賞。アカデミー賞でも9部門にノミネートされ、『タイタニック』の有力対抗馬と囁かれています。

 正直言って、僕は前回この映画を観たとき、それほどすごい映画だと思わなかった。物語を引っ張る「謎解きミステリー」の部分に弱さがあって、観客を冒頭からラストまで引っ張る力に欠けていると思った。この評価は今でも基本的には変わらないのですが、今回2度目に観て、じつはこの映画が「謎解き」以外の部分で魅力たっぷりなことに改めて気付かされた次第……。

 この映画の魅力は2つあると思う。ひとつは、登場するキャラクター造形の巧みさ。もうひとつは、1950年代の黄金期ハリウッドに、裏側からスポットライトを当てた部分。といってもこれはバックステージものではないので、ここに描かれているハリウッドとは、スタジオの外に広がる「ハリウッド周辺人種」の世界を指す。明日のスターを夢見てハリウッドにやって来たものの、芽が出ないまま女は娼婦になり、男は男娼になる。スターのゴシップを漁るだけでは足らず、捏造してでも記事を作ろうとするスキャンダル専門紙。スター女優と付き合うギャング。スタジオに入り浸って「顧問料」を稼ぐ警官。それが、この映画の描いているハリウッドです。

 物語の中心になるのは、ロサンゼルス市警の3人の刑事。ジャック・ビンセンズは世渡り上手のゴロツキ型、バド・ホワイトは瞬間湯沸器体質マッチョ系、そしてエド・エクスリーは、腕力より頭脳で勝負の能吏タイプと見せかけて、じつはずるく立ち回る策士タイプ。三者三様の人物像をきっちり積み上げて行くあたりが、この映画の真骨頂でしょう。最近の映画で、これほど人物描写の上手い映画も珍しい。しかも奇をてらった表現はひとつもない。教科書通りに、小さなエピソードや台詞、仕種などを積み重ねて行く中から、生きた人間が出来上がってくる。これは見事なものです。

 こうした人間描写がみっちり出来ているから、この映画のクライマックスは最後の派手な銃撃戦より、その前の人間同士の葛藤部分になる。それまで捜査に非協力的だったビンセンズが、エドから「ロロ・トマシ」の話を聞いて動き出す芝居とか、自分の恋人を奪われた怒りに我を忘れたバドが、エドを殺そうとする場面などは、この映画の白眉と言っていい。逆に言えば、こうした刑事同士の葛藤があまりに熱っぽく演じられているため、本来ストーリーの牽引役であるはずの「謎解き」が留守になっているというきらいがあるのですが……。

(原題:L. A. Confidential)



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