靴みがき

1998/03/04 日本ヘラルド映画試写室
ヴィットリオ・デ・シーカの代表的作品のひとつ。
どうやらフィルムに欠落がある模様。by K. Hattori



 上映前に受け取った資料や「ぴあシネマクラブ」には上映時間1時間35分と書いてあるのだが、今回試写で上映されたフィルムは正味1時間25分。映画を観ると、じつは大幅に脱落して物語がつながりにくくなっている部分がある。これは単純にバサリと10分削ったというより、あちこちから少しずつはしょった感じだ。この映画はビデオもLDも発売されているんだけど、国内には完全なフィルムが現存しないのかな?

 1946年製作のイタリア映画。監督は『自転車泥棒』や『ひまわり』のヴィットリオ・デ・シーカ。物語の舞台は、戦争直後のローマですが、焼け跡を闊歩するGIの姿は、日本の戦後と同じです。町には食うや食わずの人々があふれ、戦争で親を亡くした子供たちが大勢うろついている。そんな絶望的な日常の中で、自分たちの馬を買うことを夢見ながら、靴みがきの仕事に精出しているふたりの少年がいる。この映画は日本でも1951年に公開されていますが、焼け跡の中で自分たちの夢のために懸命に働く少年の姿に、自分たちの姿を重ねた日本人も多かったと思います。

 少年たちは馬を買う資金を得るために、米軍の毛布を売る闇商売を手伝うことにする。闇屋の大人たちから毛布をあずかり、支持された老婦人のアパートに入って値段の交渉をしている最中に、突然警察が踏み込んでくる。じつはその正体は闇屋。彼らは捜査のためと称して、大量の金品を盗みだすのが目的だったのだ。そんな事情をまったく知らぬまま、売上金を丸ごと受け取って大喜びのふたり。しかし間もなく少年たちは、窃盗の容疑で逮捕され、少年刑務所に送り込まれてしまう。

 健気に自分たちの生活を築こうと努力していた少年たちが、薄汚い大人たちの犯罪に巻き込まれて、無実の罪で監獄行き。純真な少年たちは、刑務所の中で大人たちから小突き回され、鞭打たれ、他の本物の不良少年たちの悪影響を受けながら、刑務所の中で生きてゆく。収監されている少年たちは、多くがごく普通の少年たちですが、所長や看取たちから非人道的な扱いを受け、心をすさませて行くのです。少年たちを更生させるはずの刑務所が、少年たちの人間性を破壊して行くという逆説。今はこんなことないんでしょうが、過去にはこうした実態も少なからずあったのでしょう。

 最近は日本でも、「少年事件の凶悪化に対抗するためにも、少年法を改正すべきだ」という意見が出ています。おそらく少年法というのは、この映画に出てくるような「善良な不良少年たち」を守るために作られたのでしょう。でも「少年法が作られた時代と今とは情況が違う」という意見にも、すごく説得力がある。今の日本は終戦直後の焼け跡ではないし、犯罪少年たちの取り扱いも、この映画に出てくるものとは天と地の開きがあるはずです。もちろんどんな時代にも、この映画に登場するパスクァーレやジュゼッペのような少年がいないわけではないでしょうから、そのあたりは難しいと思いますが……。

(原題:SCIUSCIA)



ホームページ
ホームページへ