ドラえもん
のび太の南海大冒険

1998/03/03 東宝第1試写室
ドラえもんとのび太たちが、17世紀カリブ海の海賊島で大冒険。
ファミリー映画の王道を走る3本立て興行。by K. Hattori



 長編オリジナルの『ドラえもん/のび太の南海大冒険』に、番外短編の『ザ・ドラえもんず/ムシムシぴょんぴょん大作戦!』、原作中で人気の高いエピソードを映画化した『帰ってきたドラえもん』を加えた3本立て。全部通して観ると2時間14分という長丁場ですが、ひとつひとつのタッチがそれぞれ異なるので、飽きないし、疲れない。父親や母親が子供と一緒に映画館に入っても、そこそこ観ていられる内容になっています。

 同時期の子供向け映画としては、松竹の『ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ』、東映の『銀河鉄道999/エターナル・ファンタジー』『長靴をはいた猫』、東宝洋画系の『マウス・ハント(日本語版)』などが競合する映画ですが、おそらくこの中では『ドラえもん』がダントツの集客となるでしょう。昨年の邦画配給収入を見ると、『ドラえもん』の前作である『ドラえもん/のび太のねじ巻き都市冒険記』が、『もののけ姫』『失楽園』に続いて第3位になっている。このシリーズは毎年の邦画配収ベスト10上位に必ず入る、東宝のドル箱番組なのです。確かにこのレベルのものを作られると、子供を連れていった親も「来年もこれを観てもいいかな」という気になるでしょうね。安心ですもん。

 『ドラえもん』の強みは、膨大な原作に加え、長年続けたTVシリーズと映画の中で、主要キャラクターの人物像がすっかり確立していることです。ドラえもん、のび太、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫など、中心となるキャラはどれも複雑な内面を持っていて、裏も表も矛盾する部分も抱えた「生きている人間」に描かれている。例えばジャイアンは、乱暴で弱いものいじめをする一方、友達思いで涙もろかったりする。スネ夫の狡猾さの裏には強いものになびく気質があり、その下には傷つきやすい繊細な心が眠っている。こうしたキャラクター造形の面白さは、ぜひ『モスラ』シリーズの脚本家にも見習っていただきたい。表面だけまねしたって駄目です。キャラクター造形の下にある、藤子・F・不二雄の人間観察のリアリズムを見習ってほしいのです。

 SFマニアでもあった原作者が亡くなっているせいかもしれませんが、今回の目玉である『のび太の南海大冒険』は、物語の整合性がいまひとつ。17世紀のカリブ海で活躍した海賊たちを主人公にして、そこにドクター・モローばりのマッド・サイエンティストや武器商人をからめるというアイデアは面白い。しかしそこから、物語が膨らんでいかなかった。それは海賊の姉弟と、のび太たちのエピソードなどに顕著です。海賊たちの登場シーンは、うまく活劇が組み立てられていますけど……。

 『帰ってきたドラえもん』は、ドラえもんが未来に帰ってしまう「さようならドラえもん」と、ドラえもんが戻ってくる「帰ってきたドラえもん」を合せた作品。原作は連載初期に描かれたものなので、実際にドラえもんが未来に帰る可能性もあったのですが、今のドラえもんは、はたして未来に帰る理由があるのかな……。


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