ディディエ

1998/02/26 日本ヘラルド映画試写室
ラブラドール犬が宇宙からの怪光線で人間に変身!
監督・脚本・主演はアラン・シャバ。by K. Hattori



 宇宙からの謎の光線を浴びた犬が人間に変身し、サッカー選手になって大活躍するという、フランス製のコメディ映画。タイトルの『ディディエ』というのは、人間に変身する犬の名前です。監督・脚本・主演のアラン・シャバが、犬になりきった名演技。ディディエを元の飼い主から預かっている間に人間に変身され、四苦八苦する中年男を演じているのはジャン=ピエール・バクリ。バクリはセドリック・クラピッシュ監督作『家族の気分』で、女房に逃げられた酒場の主人を演じていた俳優。脚本も書けば、舞台演出もし、俳優としても一流の人物です。「犬が人間に変身する」という荒唐無稽な物語も、中心にこうした名優が配役されると、妙に浮ついたところがなくなって、映画に格が出てくるものです。

 サッカーチームのマネージャーをしているジャン=ピエールは、旅行に出かける友人から、ペットのラブラドール犬を預かって世話することになる。犬の名前はディディエ。ところがその夜、宇宙からの青い光線を浴びたディディエは、朝になると人間に変身していた。突然部屋に現われた素っ裸の青年に面食らうジャン=ピエールは、大急ぎで彼に服を着せると部屋から追い出す。

 光線照射の場面は、スピルバーグの『未知との遭遇』そっくりで笑ってしまいます。変身の過程は直接見せず、犬が寝ていたバスケットの中に、翌朝全裸の青年が寝そべっているという演出になっている。ジャン=ピエールが朝の支度をしていて、なかなかそれに気付かないという展開が笑いを誘います。ジャン=ピエールが、この不思議な青年こそディディエの変わり果てた姿だと悟る場面は、この映画の中でももっとも面白い場面のひとつでしょう。このシーンで見せるバクリの曖昧な表情がじつに可笑しい。ここで観客にジャン=ピエールの気持ちが納得できないと、映画全体が嘘っぱちになってしまう大事な場面ですが、バクリの名演が見事に決まっています。

 アラン・シャバの「犬ぶり」も大した物ですが、欲を言えば、ディディエの犬時代の動作や癖を、人間になってからのそれと対比させる余地があったと思う。相手のお尻の匂いをかいだり、座る前に一度ぐるりと回る動作は、犬を飼ったことのある人なら身に覚えのあるものでしょうが、馴染みのない人にはわかりづらいと思う。犬が目を覚ます場面で、どうやって伸びをするか、どんな表情で置きあがるかなど、シャバはかなり詳細に観察と研究をしている。でもそれが、具体的にどのぐらい「本物らしい」のか、観客に一目でわかる工夫は欲しい。僕は以前実家で犬を飼っていたことがあるけど、この映画の中の犬の動作には、ピンとこないものもありました。考えると「そういえば」ということになるんだけど、これは一瞬ですべてを悟らせてほしいのです。

 ディディエをサッカーチームに入れたり、試合に出場させるくだりは、もう少し脚本と演出に粘っこさがほしい。あっさりしすぎていて、リアリティが欠けている。面白い映画だけに、細部の詰めの甘さが残念です。

(原題:didier)



ホームページ
ホームページへ