四月物語

1998/02/19 イマジカ第1試写室
松たか子主演、岩井俊二監督の爽やかな青春スケッチ。
劇中上映される時代劇はつまらん。by K. Hattori



 『スワロウテイル』で賛否両論巻き起こした岩井俊二の最新作は、松たか子主演、65分の中編映画です。僕は常々「岩井俊二の映画は短い方が面白い」と思っているので、この上映時間には満足でした。いつもの岩井映画と違い、メインタイトルがすべて日本語表記である点にも注目すべきでしょう。ここ何作かに顕著に見られた、シンボリックな小道具やエピソードの多用もやめ、すっかり丸裸の映画になっています。そして、それらがとても初々しくて、松たか子というタレントのキャラクターにあった演出になっていると思う。欲を言えば、途中で数カ所「こんな場面はいらんなぁ……」と思う部分があったので、本当はトータルで1時間を切ってほしかった。(不要なシーンの筆頭は『生きていた信長』。あれは半分の長さに縮めるべきですし、縮められます。)

 北海道から大学進学のため上京してきた女の子が、マンションで一人暮らしをはじめたり、大学で友達を作ったり、サークルに入ったり……という様子を、スケッチ風に綴った映画です。特に大きなドラマがあるわけではないのですが、それでも結構面白く観られるのは、松たか子の存在感であり、岩井俊二の演出力によるものでしょう。主人公が北海道からわざわざ東京の大学に進学した理由が、この映画の唯一の「ドラマ」です。ここは絵にして説明しなくても僕にはすぐわかったんですが、あえて回想シーンとして挿入したのはなぜなんでしょう。

 というのも、僕がこの映画で一番好きなのは、主人公が本屋でついに憧れの先輩を見つけたものの、相手が自分に気付いてくれなかったことに小さなショックを受けて家に帰る場面なのです。このくだりに、一切台詞での説明はないのですが、彼女が何を願って毎日のように本屋に通っていたのか、彼女にとって店員の青年はどんな人なのかということが、全部わかってしまう好シーンになっています。それだけに、後から出てくる詳細な解説に、ややうんざりした気分になってしまうのでした。

 わかる人は本屋のシーンと、その後のカレーを食べるシーンだけで全部わかるんだから、後からくだくだしく回想シーンを入れて説明なんてしてほしくないわけです。岩井俊二は、自分の演出力にもっと自信を持っていい。へたなサービス精神を発揮して、お芝居の中で全部解説してくださらなくて結構です。この映画の中では、言葉でいちいち説明せずに、シーンのつなぎやちょっとした表情だけで語る場面がたくさんあって、それがじつに面白く仕上がっている。例えば、主人公が大学のサークルに誘われた真相が暴露されるシーンなんて、何とも言えず可笑しいわけです。これが全編できれば良かったのですが……。やっぱり不安になっちゃうのかなぁ。

 クライマックスを土砂降りの雨の中でのハッピーエンドにするというのも、なかなかユニークです。雨音にかき消されないように、登場人物が大声で怒鳴りあっているのが、感情をどんどん盛り上げて行く。僕は単純に感心してしまいました。


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