シューティング・フィッシュ

1998/02/17 銀座ガスホール(試写会)
今いちばん元気な映画を作っているのはイギリスかもしれない。
詐欺師3人組を主人公にした青春映画。by K. Hattori



 タイトルの『シューティング・フィッシュ』というのは、「だますのは簡単」という意味のスラング。この映画に登場する詐欺師たちが、ひと仕事終えて「うまくやったぞ」「カモをひっかけたぞ」という時に使っている。詐欺師というのは映画製作者たちにとって魅力的なテーマのようで、名作『スティング』はじめ、数多くの作品が作られている。こうした映画の大部分は、そのテーマを「男の意地」(『スティング』)だの「犯罪を通して見えてくる人間の業の深さ」(『グリフターズ』)などに置きがちなのだが、この映画は「詐欺」にまつわるエピソードを掘り下げるのではなく、ドラマの表面を覆う装飾品として使っている。その実態は、ちょっと気のきいた青春映画。話自体は他愛ないものだけど、出演者たちが生き生きしているし、テンポも抜群。ニヤニヤ笑いながらも物語にぐいぐい引き込まれて、最後はニコニコ。僕は大満足でしたが、逆にこれを詐欺師の映画だと思うと、ちょっと物足りないんじゃないでしょうか。

 孤児院育ちのディランとジェズは、大人になったら2百万ポンド貯めて、自分たちのための大邸宅を買おうという夢をもっている。互いに別々の道を歩んだふたりは、大人になってから偶然再会。かつての夢の実現に向けて働きだす。仕事の内容は、ジェズの作った珍奇な発明品を使った詐欺。だが、まもなく2百万ポンドに手が届くというある日、アルバイトに雇った女子医学生ジョージーに仕事の内容を勘付かれてしまう。

 リアルな青春ストーリーというより、ノリはファンタジックな冒険活劇であり、おとぎ話です。ふわふわと現実離れしたウソを積み重ねて、最後の最後に大きなウソを見事に信じさせてくれる。物語が大きく飛翔するのを避け続け、我慢に我慢を重ねてクライマックスまで持ってゆき、観客に「もうどうにでもして!」と思わせるところにには観るべきものがあると思います。小さなエピソードの積み重ねが生み出す微細な愛撫に観客が嬌声をあげ、みずから股を開いてしまうまで(なんて下品なたとえでしょう!)じらす、老練なテクニシャンぶり。もうメロメロです。これが偶然こうなったのか、たまたま効果的な演出が生まれてしまったのかはわからない。でもこれが計算で生まれたものなら大したものです。普通はここまで我慢できなくて、途中で小さな山場を作ったり、もっともらしい伏線を張って観客をやきもきさせようとしたりするもんですが、この映画からはそうした物欲しそうな目付きが感じられないのでした。

 主人公たちが暮らす、ガスタンクの家の内装がじつに凝っていて、これだけで彼らの浮き世離れした趣味嗜好がすぐわかる仕掛けになっている。主役3人のキャラクターも、じつに巧みにまとめあげられていて、三者三様の魅力を発揮しています。中でも、ジェズを演じたスチュアート・タウンゼントと、ジョージー役のケイト・ベッキンセイルが強い印象を残します。このぐらいの映画が、日本にも出てくるといいんですけどね。

(原題:SHOOTING FISH)



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