杣人物語
そまうどものがたり

1998/02/02 東和映画試写室
『萌の朱雀』の河瀬直美監督が撮った新作ドキュメンタリー映画。
『萌の朱雀』につながる温かさを感じる作品。by K. Hattori



 『萌の朱雀』で昨年のカンヌ映画祭新人賞(カメラ・ドール)を受賞した河瀬直美の最新作。『萌の朱雀』の舞台ともなった、奈良県西吉野村に暮らす人々の姿を描いたドキュメンタリーだ。取材されているのは、村に暮らすお年寄りたち。彼らには、村の生活の中で培われたドラマがある。日常生活の中から生れる何気ないドラマを、河瀬直美のカメラが少しずつ解きほぐして行く様子は、地味な中にもスリルがある。8ミリカメラやビデオで撮影された映像は巧みに編集され、さながらオムニバス形式の映画を観ているような気にさせられた。

 タイトルにある「杣人(そまうど)」というのは「杣人(そまびと)」と同義の言葉。さらに辞書で調べると、「杣人(そまびと)」は「山にはえた木を切る職業の人。きこり」のことであると同時に、「杣(そま)」そのものを指す言葉でもあることがわかる。さらに「杣(そま)」そのものの意味を辞書で調べると、そこには「そまやま、そまぎ、そまびと」という3つの意味が載っていた。この言葉は、山、山で採れる材木、山で働く人の総称なのです。「杣(そま)」という言葉の中では、山も人も、仲良くひとつに溶け合って同居している。山とひとつになり、山の一部であるかのように、周囲と同化している人間たちの姿。河瀬直美がこのタイトルに込めた意味は、そんなところにあるのかもしれません。

 『萌の朱雀』にも8ミリカメラの映像が登場しましたが、この映画はその映像と呼び合うように作られた、もうひとつの映画です。『萌の朱雀』と『杣人物語』は、2本でひとつの世界を完成させる、一対の映画のように思えてなりません。この映画を観ると、『萌の朱雀』で河瀬直美が本当に描きたかったことが見えてくるような気がするのです。『杣人物語』はドキュメンタリー、『萌の朱雀』はドラマという違いはありますが、描かれている世界観はまったく同じです。『杣人物語』の中に『萌の朱雀』の國村隼が出てきてインタビューに答えていても、ぜんぜん不自然ではないような雰囲気がある。『杣人物語』でインタビューに答えていた老人たちの話を掘り下げて行けば、そのまま『萌の朱雀』につながって行くような感覚を得られる。そんな映画です。

 8ミリカメラというのは、今ではプロの映画製作の現場でほとんど使われなくなってしまった機材だし、アマチュアも機材や感剤入手の難しさから、ほとんどがビデオに移行していると思う。この映画も場面によってはビデオ撮りして、キネコでフィルムに起こしているわけですが、面白いことに、画面の質感が8ミリとビデオではほとんど変わらない。ビデオ撮影したものを厳密に「映画」と呼べるかどうかは議論のありそうなところですが、少なくともこの映画のように、最終的にフィルムという携帯で上映されることを前提に作られた作品は、「映画」と名乗ってもまったく構わないような気がします。僕もつい数年前まで「フィルム以外は映画じゃない!」と力んでたんだから、人間なんてあてにならないね。


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