F〈エフ〉

1998/01/30 松竹第1試写室
結婚を目前にしたOLが、若いバレエ・ダンサーと恋をする……。
よくできた映画だが主演の羽田美智子が弱い。by K. Hattori



 日本映画界のみならず、日本の芸能界、経済界を騒然とさせた御家騒動で、きな臭い空気の漂う松竹ですが、映画はそんな騒ぎと無関係に公開される。『CURE/キュア』を最後に専用劇場チェーン路線を放棄してしまったシネマジャパネスクですが、製作映画はまだしばらく供給され続けます。とはいえこの『F〈エフ〉』は、「シネマジャパネスク」「企画:Team Okuyama(奥山和由)」「主演:羽田美智子」と、御家騒動周辺の材料が一同に集まっていますから、いろんな意味で注目されてしまう作品かもしれません。映画ファンとしてみれば、新生『ガメラ』シリーズや『学校の怪談3』などで、特撮やファンタジー系作品を続けざまに撮っていた金子修介監督が、久しぶりにストレートなドラマを撮ったことに注目したいところ。同時にこの映画は、世界的なバレエ・ダンサー、熊川哲也の映画デビュー作でもあります。

 一部では奥山プロデューサーの愛人だと報道されている羽田美智子ですが、僕自身はあまりそうした方面の話題に興味がありません。僕が問題だと思うのは、羽田美智子という女優に、スターとしての華がないことです。『RAMPO』『美味しんぼ』『大統領のクリスマスツリー』『栄光と狂気』『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』など、僕は彼女の出演作をかなり観ている方だと思いますが、どの作品を観ても、彼女は「ちょっときれいな女性」という枠から外に出てこない。どういうわけか、いつも地味で控えめな女性を演じることが多いのですが、僕自身は、彼女はもっとアップテンポの映画で、陽性の魅力を開拓した方がいいのではないかと思っています。

 そうした意味では、今回の映画もまだ物足りないのですが、前半から中盤にかけてのいくつかの場面で、今までの作品にはない、明るい笑顔を見せていたのが印象的でした。特によかったのは、自動車のドアロックをあけて、エンジンをスタートさせるくだりと、車を走らせている間の熊川哲也との会話シーン。会社の中で、パソコンをばりばり直してしまう場面もユニークでした。まぁ、こんなものは誰がやっても同じなので、特に羽田美智子でなければ……というものでもないんですけどね。彼女が友人役の村上里佳子と並ぶと、存在感で負けちゃうんですよね。恋のライバルを演じる戸田菜穂の方が、よほど面白い味を出してますし……。

 物語は少しこったラブストーリーで、テイストとしてはノーラ・エフロンの『めぐり逢えたら』に近い。ラジオ番組や携帯電話を使ったシーンには、新鮮な工夫があります。演出は力強く、多少の無理を押し切って行くパワーがある。ラジオ番組を使った映画としては、『七月七日晴れ』より何十倍もよくできてます。撮影もかけるべきところには、たっぷり時間とお金をかけている。ラストのバレエ舞台など、カメラポジションを何度も変えてるから、結構大変だと思います。全体に、金子修介らしい軽さとスピード感、それに優しさや温かさがあり、好感の持てる作品に仕上がっています。


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