ガタカ

1998/01/29 ソニー・ピクチャーズ試写室
遺伝子操作と出産が強く結びついた近未来を舞台にしたSF映画。
テーマが今日的で、映画としてもよくできてます。by K. Hattori



 今や妊娠中の胎児の性別は、超音波などで簡単に調べられます。胎児に先天的な異常がないかを調べる羊水検査も、取りたてて珍しいものではありません。かつてはオギャーと生れるまでわからなかった赤ん坊の性別や先天障害などが、生まれる前に調べられるというわけです。もし両親が望まない性別の子供だったり、胎児に先天的な障害が見つかった場合はどうなるのか……。あまり考えたくありませんが、こうした検査によってこの世に生れるチャンスを失う赤ん坊も少なくないはずです。

 現在は遺伝子レベルで、人間の病気の原因や性格、寿命などが決定されている可能性についての研究が進んでいます。これが胎児の検査と結びつけば、体力や知能が劣る子供、将来に病気になりやすい子供、容姿が人より見劣りする子供などを、妊娠初期に調べられます。さらに体外受精技術と組み合わせれば、多くの受精卵の中から劣勢の因子を持つものを除外し、優れた特性を持つ受精卵だけを母体に戻して生むことだってできる。『ガタカ』に描かれているのは、そんな技術が確立された、そう遠くない未来です。これは荒唐無稽な絵空事ではなく、今ある社会のすぐ隣にある未来なのです。

 『ガタカ』に描かれる社会は、人間が生れながら持っている遺伝子によって格付けされ、徹底的に差別されるシステムを持っています。日本社会に根強く残っている学歴信仰が、遺伝子信仰に置き換わった世界をイメージするとわかりやすい。学歴社会では最終的な高学歴がその人の一生の幸福を左右すると考えられていますが、遺伝子社会では、その人の遺伝子の特性そのものが人間の幸福を左右すると考えられている。この映画を作った人たちは、遺伝子社会をナチス的優性主義が徹底したディストピアとして描いたつもりかもしれませんが、学歴信仰の現実を少しでも知っている日本人から見ると、この世界はすごくリアルなのです。もし現実に映画に登場するような遺伝子解析技術が登場すれば、日本はあっという間に『ガタカ』に描かれているような社会になるでしょう。血液型性格判断が流行った頃は、血液型をもとに入社判定をしていた会社さえあったという国ですからね。

 この映画の主人公は、両親の愛の結晶として生れた、遺伝子レベルで操作されていない人間です。彼は誕生時の遺伝子検査で心臓疾患の可能性を指摘されたことから、高等教育を受けるチャンスを奪われ、一流企業に入社することもできない。そこで、優秀な遺伝子を持ちながら社会的栄誉から遠ざけられた人物とパートナー契約を結び、その遺伝子を使って社会的成功の階段を登って行きます。SF映画としても抜群に面白いし、青春映画としても、ミステリーとしてもよくできてます。未来社会を表現する美術セットやコスチューム、撮影なども、抜群のセンスを感じさせるもの。主人公と遺伝子提供者の共生関係や、恋人との関係などが、スリルを生み出している。役者も素晴らしいし、マイケル・ナイマンの音楽が最高です。地味な映画ですが、強力推薦作です。

(原題:GATTACA)



ホームページ
ホームページへ