ジャンク・フード

1998/01/28 ユニジャパン試写室
日本インディーズ映画界の巨匠・山本政志の最新作。
チーマーを演じた鬼丸がすごい。by K. Hattori



 大作『熊楠 KUMAGUSU』の製作が頓挫したままの山本政志監督ですが、一昨年の『アトランタ・ブギ』に続いてまたもや新作を発表し、製作欲旺盛なところを見せてくれます。じつは僕、山本監督の映画を観るのが初めてなんですが、この人はちゃんとしたテクニックを持ってる人ですね。これなら大きな映画もきちんと撮れそうです。『熊楠 KUMAGUSU』の完成を、陰ながら祈ることにしましょう。(多分駄目だと思うけど……。)

 今回の映画は84分という短めの作品ですが、それがさらに前半と後半のふたつの話に別れている。前半と後半に物語の有機的なつながりはないが、短編映画の2本立てという雰囲気は微塵もない。物語はそれぞれ独立していても、全体を貫く語り口や映像のトーンが共通しているので、ふたつはバラバラにならないのだ。さらにプロローグとエピローグに、盲目の老婆が朝ベッドから起き上がり、コンビニにパンを買いに行って食事をする場面をビデオ撮影した映像が使われている。毎日のように繰り返されている平凡な朝の風景ではじまり、また同じ朝の風景で物語が閉じられる構成。この映画は、その間の出来事を描いているわけです。

 映画が始まった途端にビデオ撮りのキネコ画面で面食らいましたが、ドラマ部分はきっちり35ミリで撮影してます。インディーズ映画は最近ほとんど16ミリ撮影なんですが、35ミリは映像の艶が違います。ドラマが始まった直後の、女の人が太陽に手をかざして眺める場面の美しさ。大きなバスダブに満たされた水の輝き。これは16ミリだともっと浅い映像になるはずです。ジャンキーのOLを描いた前半のエピソードは、物語の組み立てより映像で見せる部分の多いパートなので、同じことを16ミリでやると目も当てられなかったかもしれません。ただし後半のエピソードは、16ミリで撮影しても一向に構わなかったような気がするけどね。

 前半のエピソードは、昼間は会社勤めをそつなくこなす美人OLが、夕方から夜になると街に出てクスリを買い込み、初対面の男と狂ったようにセックスする様子を描いた物語。彼女の常軌を逸脱した行動が、周囲の同僚や家族にもまったく見えないというのがアイデアの核になっていると思うのですが、僕にはちょっと退屈に感じられた。冒頭の殺しの場面に凄惨さが感じられないし、彼女が狂気スレスレの不安定さの中にいる(あるいは既に狂っている)ことの恐さが、生理的な不快感や恐怖として伝わってこなかったのだ。

 逆に後半のエピソードはすごく面白い。パチンコの景品引換所を襲い、恋人を殺して逃げるパキスタン人。女子プロレスラー。チーマー。京都人と中国系アメリカ人の娼婦など、多彩な人物がパズルのように組み合わさった一夜。一種のグランドホテルですな。中でもチーマーのリーダー格、リョウを演じた鬼丸が素晴らしい存在感を見せて、この映画の最大の掘り出し物になってます。これはすごい役者になるかもしれないぞ! 要チェック。


ホームページ
ホームページへ