MIND GAME

1998/01/26 松竹第1試写室
多重人格の青年を治療しようとした男が、逆に精神を支配される。
俳優・田口浩正の映画監督デビュー作。by K. Hattori



 周防正行監督作や三谷幸喜のドラマでお馴染みの俳優・田口浩正が脚本を書き、初監督したサイコ・サスペンス。若いセラピスト片山が、恋人でもある三輪かおりに紹介されて、多重人格障害を持つ青年・田所に出会う。田所の心の秘密を探るうちに、片山自身の心の中に眠っていた暗い記憶が甦ったり、三輪が田所と関係を持ってしまったり……。「木乃伊取りが木乃伊になる」のたとえ通り、田所を治療しようとしていた片山と三輪が、逆に精神面で田所に支配されて行くようになる。

 生憎だが、僕はこの映画をあまり面白いとは思えなかった。その理由は大きくふたつある。ひとつは画面の絵面として、片山を演じる田辺誠一と柏原崇が似たタイプの役者であり、ツーショットの絵にまったくメリハリがないこと。強いて言えば、これは片山側のキャスティングに失敗しているのだと思う。僕はこの田辺誠一という役者を知らなかったんですが、声は甲高いし、顔も優しそうだし、一言で言えば「女みたい」な男なのです。この役は、もっとガッチリしたタイプの男優をキャスティングした方がよかった。外見的には完璧に健康な男子である片山が、心の中では幼い頃の忌まわしい記憶に付きまとわれて苦しんでいる、という展開にしないと面白味がないよ。それに、肉体的には片山が田所より圧倒的優位に立っているという説明がないと、中盤で片山がパニックを起こし、田所に暴力を振るうシーンが生きてこない。ふたりがもみ合っているシーンは、まったく暴力的に見えず、恋人同士がじゃれあっているようだった。

 第2の問題点は、片山の恋人・三輪のキャラクターがぜんぜん描けていないこと。この映画は、基本的に片山・田所・三輪の三角関係がメインプロットの一方にあり、もう一方に片山と田所の過去の記憶をたどる旅がある。映画では後者はそこそこ描けていたものの、前者がまったく描けていないため、物語が求心力を失って瓦解している。そもそも最初から、片山と三輪が恋人同士のようには見えないのは困ったものだ。こんなの、普通の脚本と普通の演出なら、30秒で説明できる関係だよ。

 ふたりの関係があやふやだから、三輪が恋人である片山に内緒で田所をカウンセリングする場面が唐突です。彼女は恋人である片山に、自分が発見した田所を取られるような気がしている。セラピストとして活躍している片山に対し、カルチャーセンターで箱庭療法の講座を持つぐらいしか能のない自分に、コンプレックスを持っている。だから彼女は自分に自信がない。自信がないから、危険を顧みずに冒険してみたくなる。そんな彼女の気持ちが、もう少し掘り下げられていると良かったんだけどな。彼女のキャラクターに全然魅力がないのは、演じている鈴木保奈美のせいじゃないよ。脚本が悪すぎる。

 箱庭療法を通じて他人の精神をコントロールするという描写に、まったく工夫がない。言葉で説明するだけではだめ。こんなのどうせ嘘っぱちなんだから、言葉ではなく、その場だけでも「絵」で観客を納得させなきゃ。


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