この森で、天使はバスを降りた

1998/01/15 シャンテ・シネ1
この映画を観るのは2度目だけど、ラストではやっぱり泣いてしまった。
絵画のように美しいギリアドの景色が目にしみる。by K. Hattori



 映画会社の試写室で観て泣いてしまった映画を、公開初日に再び観て、やっぱり最後は泣いてしまった。この日は東京が大雪で、日比谷界隈の人通りもまばら。この映画を観たあと飲みに行く予定になっていたので、雪を踏みしめながら劇場に向かいました。最終回の1回前を観るつもりだったんですが、結局この日は雪の影響でシャンテの最終回はすべて取り止めとなり、僕の観た4時過ぎからの回が最終になってしまいました。そのぐらい、雪が積もってたんです。ま、雪国の人から見るとたいした量じゃないんですけど、東京の交通網は雪に対応していないので、雪が3〜4センチも積もれば交通が完全に麻痺してしまう。映画館の従業員の帰宅の足を確保するため、最終回を早めに切り上げたのでしょう。

 同じ映画を2回観ると、前回見落していたさまざまな要素が目について、映画をより深く理解できます。たいてい1度目はストーリーを追うことに夢中になって、細部の演出や役者の演技内容まではなかなか気配りできないのですね。結果として、何度も観ることでアラが見えてきてしまう場合もあります。初めて観てたっぷり感動してしまったこの映画についても、2度観るといろいろな点に不満が出てくる。説明不足な点もあるし、強引すぎるところもあるし、一人よがりな部分もある。そうした傷や欠点も、繰り返し映画を観ることで目につきますが、同時に長所や美点に改めて気がつくこともある。

 たとえばオープニングで、主人公パーシーが登場する場面。「メイン州観光協会」で電話のオペレーターをしている主人公のクローズアップから始まって、そこが刑務所の中であることがわかるまでの移動撮影ショットはよくできてます。カメラの目前で、鉄格子の扉をガシャリと閉めてしまう演出が効果的だと思いました。全体的に、この映画の絵作りの上手さ、カメラが風景を切り取るアングルの素晴らしさに改めて惚れ惚れします。パーシーがギリアドの町に到着し、丘の上のバス停から小さな町を見下ろすショット。ボーイフレンドと森の中を散歩する場面。森に住む謎の男、ジョニー・Bとの邂逅。ストーリーのポイントでは、それこそ絵画のように安定した構図と描写で、物語をフィルムに定着させて行く。少しふわふわしたところもある物語展開ですが、こうした力強い絵が入ると、そこで物語がガッチリと締って見えるのです。特に中盤までの絵作りに唸らされます。

 パーシーを常に疑いの目で見るハナの甥ネイハムのキャラクターを、もう少し掘り下げてくれると、この映画は文句なしの名作になったでしょう。彼は自分の生活を守ることしか頭にない小心な男ですが、根は悪い人ではないはず。彼の行動は、すべてかれの弱さから出ているのだと思う。こういう人はどこにでもいるし、僕自身、ネイハムと同じような面を持っています。だけど映画の中では、彼が単に偏屈で意地悪で偏見に満ちた人物のようにしか描かれていません。彼がこの映画の大きなキーになっているだけに、少しその点が残念でした。


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