中国の鳥人

1998/01/14 TCC試写室
本木雅弘扮するサラリーマンが、中国奥地で見つけた現代のおとぎ話。
マコ・イワマツ演じる通訳兼ガイドがすごく面白い。by K. Hattori



 モックンこと本木雅弘主演の、中国秘境ファンタジー。翡翠の買付けのため中国雲南省を訪ねた平凡なサラリーマンが、彼の地の少数民族の生活に触れて、自分の中に眠っていたピュアな心が甦えらせる。同行するのは、勝者とのトラブルで翡翠取り引きに同席することになった、石橋蓮司扮するやくざと、珍奇な日本語を操る通訳兼ガイド、マコ・イワマツだ。この映画の一番の見どころは、実際に雲南でロケ撮影した美しい風景だろう。一面の木々の緑と、墨絵のように霧にかすむ山並み。その中に、原色の民族衣装をつけた少数民族たちが、昔ながらの生活を守っている。その風貌はどこか日本人に通じ、彼らが日本人の祖先ではないかという学説もあるらしい。

 原作は椎名誠。監督は三池崇史。脚本は『岸和田少年愚連隊/血煙り純情篇』でも三池監督とコンビを組んだNAKA雅MURA。撮影は同じ『岸和田少年愚連隊/血煙り純情篇』で三池監督と組み、北野武監督の『HANA-BI』も撮っている山本英夫。製作は椎名誠のホネ・フィルムだ。ホネ・フィルムの海外作品といえば、椎名誠監督の『白い馬』がある。現地にどっかりと腰をすえ、現地の人たちの視線に同化するように撮られた『白い馬』とは異なり、この『中国の鳥人』は、あくまでも異邦人である日本人たちの視線で、中国の秘境を撮っている。主人公たちは現地では「部外者」であり「よそ者」の「お客さん」だ。「都会ずれしていない素朴な少数民族たちの心の交流」などという、安っぽいテレビドキュメンタリー風の構図に流されることなく、徹底して主人公のアウトサイダー意識を描写する点が新しい。

 モックン演ずる主人公も、同行のやくざも、自分の意志で雲南まで来たのではなく、上司や兄貴分の命令で嫌々中国の奥地まで足を運んだに過ぎない。それがきちんと説明されているから、へんに甘ったるい感情的なやりとりを描かなくて済むし、ゼロから始まる現地の人々との交流を描くこともできる。中国雲南に対する予断や思い入れがないところから物語が始まるので、観客は主人公の視線を借りて、すんなりと物語の中に入り込める。

 とはいえ、僕はこの映画をあまり評価していない。雲南への旅を通して、主人公たちはそれまでとは違った価値観や人生を見つけ出す。この価値観の転換が映画の中だけで完結してしまい、映画を観ている観客までは伝わってこないような気がするのだ。それは、現地の村人たちの無垢な美しさを賞賛しつつ、その実態がまったく描かれていないのが原因だろう。この映画に登場する「鳥人学校の先生」が、主人公たちと村人たちを結ぶ架け橋になるのだが、彼女は小型飛行機で近くに不時着したイギリス人パイロットの孫であり、村人たちから「村の恥」と思われている一種のアウトサイダーなのです。しかも彼女のキャラクターもあまり深く描き込まれていないため、ここを入口にして観客が村人に接近することは難しい。これでは主人公たちの気持ちに共感しろと言われても、なかなか難しいでしょう。


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