ジャッキー・ブラウン

1998/01/09 ヤマハホール(試写会)
クエンティン・タランティーノ最新作。今回は出演なしで監督に専念。
今までのタランティーノを期待すると、ちょっと肩透し。by K. Hattori



 クエンティン・タランティーノの最新作です。『レザボア・ドッグス』『パルプ・フィクション』に次ぐ、長編第3弾。途中に『フォー・ルームス』の1エピソードを演出していますが、やはりタランティーノだけをたっぷり観たいというファンも多かったはず。考えてみれば『パルプ・フィクション』はもう3,4年前の映画なんですよね。まさに、待ちに待った新作映画です。

 原作はエルモア・レナードの小説「ラム・パンチ」。主人公ジャッキー・ブラウンを演じるのは、『マーズ・アタック!』で黒人少年たちのお母さんを演じたパム・グリアー。今回は脇役がじつに豪華。サミュエル・L・ジャクソン、ブリジット・フォンダ、マイケル・キートン、ロバート・デ・ニーロなど、ひとりで主演映画が作れるような有名どころがずらりと並びます。このあたりは、やはりタランティーノだからこそ可能なことなのでしょう。原作のレナードと言えば、ハリウッドのギャングを描いた『ゲット・ショーティ』も彼の作品。つい最近、ポール・シュレイダー監督・脚本で映画化された『Touch/タッチ』も、レナードの作品でした。(ちなみに『Touch/タッチ』にも、ブリジット・フォンダが出演してます。)レナードの小説って、そんなに面白いんですかね。今度機会があったら読んでみよっと……。

 主人公ジャッキー・ブラウンは、武器商人オデールの金をメキシコに運ぶ手伝いをしている。警察はオデールを捕らえるために、金の運び屋ジャッキーに圧力をかける。オデールを裏切り、警察に協力しなければ、ジャッキーを逮捕するというのだ。オデールを裏切れば殺される。裏切らなければ逮捕されて、生活の一切を失う。前にも後ろにも進めないジレンマの中で、ジャッキーはオデールにある提案をするのだった……、といった話。結構入り組んだ話を、タランティーノは淀みなく語る。

 登場人物が出揃う、前半から中盤までの作りはなかなかよい。ただし、この映画って『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』に比べると、ずいぶんと普通の映画なんだよね。僕はこの映画から、タランティーノの才気をあまり感じることができなかった。人物ひとりひとりに踏み込んでいって、もっとエキセントリックでスリリングな話を組み立てることは簡単だったと思うのに、タランティーノはあえてそうした方法を取らない。あえて「普通の映画」にするというのが、今回のタランティーノの意図だったのだろう。しかし、観客としてはちょっと物足りなさを感じるのも事実。序盤で武器商人役のサミュエル・L・ジャクソンが、「黒人は映画の影響で銃を買う。今は香港映画の影響で45口径が人気だ。しかも必ず2丁買う」と言っている場面は面白かったけど、これに匹敵するシーンが、この後あまりないのです。

 デ・ニーロが「普通の役」を演じていたのが驚きです。彼はどんな映画にどんな役で出ても「デ・ニーロ臭」を撒き散らす俳優ですが、この映画では見事に脱臭されて、役そのものになりきっていました。


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