極道の妻たち
決着(けじめ)

1997/12/18 東映第1試写室
組織を裏切り、親に罪をなすりつけた裏切り者を、姐は許さない!
東映のドル箱シリーズも10作目になってついに完結。by K. Hattori



 人気シリーズ『極道の妻たち』の10作目にして完結編と銘打った作品。昭和61年の第1作目以来、ほぼ毎年1本のペースで作り続けられた東映のドル箱番組が、ついに幕を下ろす。おそらく何らかの形で『新・極道の妻たち』が始まると思うけど、ひとまず現在の形のものはおしまいらしい。シリーズ10作中8作に主演した岩下志麻さんは、ながのオツトメご苦労さんでした。岩下さんが出演しないときも脇で作品を支え、同じく8本に出演したかたせ梨乃さんもご苦労様です。

 このシリーズをスクリーンできちんと観たのは今回が初めてだったんですが、物語はともかくとして、演出技術やスタッフワークはかなりの高水準です。有名俳優を使った芝居のアンサンブルは、時にバラバラになってしまいそうな危うさを感じさせながら、張り詰めた一定の緊張感でストーリーを先へ先へと進めて行く。荒唐無稽なマンガにならない程度に脚色された美術セット、役者や演出でしのぎきれる範囲を熟知した脚本。

 何よりも素晴らしいのは、女優たちを美しく撮り上げた撮影技術でしょう。このあたりは時代劇で培った東映京都の伝統なんでしょうね。岩下志麻さんもかたせ梨乃さんも、じつに美しく撮れている。ライティングを工夫したり、画面に少し紗を入れたりしているのはわかりますが、それが物語から浮かないナチュラルな仕上がりなのです。同じ岩下志麻主演でも、松竹の『お墓がない!』はカメラが技術不足で、ボケボケにもやがかかったパステル調のソフトフォーカスでした。あそこまで紗が入ってしまうと、かえって女優さんに対して失礼な気がしたんですけどね……。

 物語は完全にステレオタイプな型にはまり込んでいて、まったく新鮮味はない。小枝の部分で少しずつ新しいところを感じさせながら、別のところで完璧な時代錯誤がまかり通るというアンバランスさもある。しかしそれを、演出の力で見事に乗り切っていってしまう。俳優が弱いところはちゃんと台詞で補うなど、演出にそつがないんですね。愛川欽也が流れ者のやくざを演じてもうけ役。細川ふみえがやくざの情婦というキャスティングは意外だったけど、話が進むにつれて案外はまってくる。竹内力の役にもう少しエピソードが積めると、映画に背筋が通ったと思うんだけど、そうなると奥さんがキンキンに惚れるエピソードが裏切りのように感じられるし、最後に花会で暴れるシーンも、亡くなった組長の顔に泥を塗ることになってしまう。演出のさじ加減としては、この程度に抑えておく必要があるのでしょうね。

 かたせ梨乃の亭主が大杉漣扮する気のいいやくざなんですが、彼が無事に引退した後の話が少し見たかった。部屋でぼんやりと過ごす姿は、周防正行の『変態夫婦・兄貴の嫁さん』の再現みたいで面白そうだ。かたせに愛想つかしされて、九死に一生を得た藤田朋子と一緒になるというのも面白いかも。このあたりの決着のつけかたがビシッと決まれば、この映画は100点満点だった。


ホームページ
ホームページへ