プロゴルファー織部金次郎5
愛しのロストボール

1997/12/10 東映第1試写室
武田鉄矢はスポーツ映画と人情喜劇を最初からおさらいしたほうがいい。
物語自体も息切れしはじめたシリーズ第5弾。by K. Hattori



 万年下積みの勝てないプロゴルファー織部金次郎と、彼を応援する下町の人情を描いたシリーズ第5弾。これだけ続いているからには、このシリーズもある程度の人気があるってことなんでしょうか……。これって寅さん映画の併映でやむを得ず観せられてしまう松竹人情劇と同じ匂いがプンプンするんですが、ここにある笑いのセンスやエピソードの処理方法は、とても平成10年公開の映画とは思えない。僕はシリーズ1作目と2作目ぐらいは観たような気もしますが、その時点では「まぁこんな映画があってもいいのかな」と思ってました。でも5作目になってもこんなことしているのは、ちょっと異常ではなかろうか……。(ちなみに原作の漫画を描いていた高井研一郎は、コミック版『男はつらいよ』も描いている人ですね。やはり松竹系なんだよなぁ……。)

 主人公のキャラクターに僕はまったく共感できないんだけど、これは原作者であり、脚本家であり、監督であり、主演俳優でもある武田鉄矢の思い入れの産物でしょうから、特別文句を言っても仕方のないことです。恋人桜子の人物像もまたしかり。このへんは、もうガチガチに固定化していて動かしようがないし、観客の好き嫌いや思惑とは別の次元で、それなりに出来上がっちゃってるキャラクターです。それより僕が問題だと思うのは、周辺人物の描き方。桜子の兄が経営する喫茶店に集う近所の人々の描き方が、いつまでも類型的で面白味にかけます。人物の役どころや配置などは、この手の映画にありがちなものだし、まずは定石通りと言えます。最初の映画ならこの程度でも仕方がないんですが、シリーズ5作目にもなってこのレベルじゃ困るよ。

 『男はつらいよ』シリーズなどは典型的なんだけど、レギュラー出演陣のキャラクターが固まってくると、もうそれだけで一定レベルの空気を作って行けるはずなんです。「この人ならこんなことを言う」「それに対して、彼はこんなリアクションをする」というアンサンブルが生れると、観客は安心して映画を観ていられるし、シリーズ作品の品質を下支えすることもできる。「今回の話は面白くないけど、いつものメンバーの顔ぶれが見られたからいいか……」という気になれる。でも『プロゴルファー織部金次郎』シリーズからは、こうした安定したアンサンブルが見えてこない。織金の応援団である近所の気のいい連中も、いかにも薄っぺらで中身がない。ここに厚みが出せるようになれば、映画監督としての武田鉄矢も本物なんでしょうが、これではまだ素人です。

 別れた女房との間に生れた子供たちを気遣い、「お前たちが幸せになるまで、父さんは幸せにはならない」と宣言する主人公。これを優しさだと100%無邪気に考えられる観客がどれだけいるんだろう。彼が桜子と結婚できないのは、他にも事情がありそうなんだけど、映画ではそこを誤魔化しているような気がする。桜子のことが本当に好きなら、娘たちのことは別のこととして、自分は結婚したほうがいいと思うけどなぁ……。


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