ラブ&ポップ

1997/11/25 東映第1試写室
『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督が村上龍の原作を実写映画化。
語り口がいかにも今風で面白い。こりゃ傑作です。by K. Hattori



 コギャルを描いた映画は原田眞人の『バウンスkoGALS』が決定版かと思っていたら、『エヴァンゲリオン』の庵野秀明がやってくれました。この『ラブ&ポップ』は『バウンスkoGALS』にも引けを取らない力作です。はっきり言って、話題のアニメ映画『エヴァ』を完結させた庵野秀明の次作が実写だと聞いたとき、僕は「何を偉そうに」と思った。写真週刊誌の報道で、映画をフィルムではなくデジタルビデオで撮影していると知ったときは、「映画をなめとんのか!」と憤慨した。今回試写を観るにあたっては、あらかじめ「あわよくばけなしてやろう」「勘違いした新人監督を罵倒してやろう」という下心があったことを正直に白状しておく。

 ところが、出来上がった『ラブ&ポップ』は素晴らしい映画だったのだ。めまぐるしく切り刻まれたカットなど、映画表現としてどうかと思う点もなくはない。スクリーンサイズを無視した画面のトリミングも、映画のルールを踏み外しているように思える。やたらと広角レンズを使って歪ませた画面も能がないように思えたし、人物の視点でカメラを動かすアングルも、すべてが成功していたとは思えない。だが、一番心配していた画質はあまり気にならなかった。デジタルビデオだと、この程度のものに仕上げられるという、ひとつの見本になる映画です。『TOKYO BEAST』や『ルーズソックス』のような ビデオ映画の画質に失望していた僕ですが、ビデオでこの程度のものができるのなら、今後はビデオ撮影の映画がもっと増えてきてもしょうがないと思います。

 この映画のモチーフになっているのは、女子高生の 「援助交際」です。今の女子高生を描こうとするとき、援助交際は避けて通れないテーマなのでしょう。最近どんな映画を観ていても「女子高生=援助交際」という公式が出来上がっています。この映画がユニークなのは (これは村上龍の原作がそうかのかもしれませんが)、「援助交際は売春です」という世間に流布した援助交際の実態とは別の部分で、自分たちが「女子高生である」ことを経済的価値に置き換えてゆく少女たちを描いていることでしょう。女子高生としゃぶしゃぶを食べてひとり1万円、自分の部屋で手料理を食べさせて8千円、カラオケに行って4万円、ビデオ屋についていって5万円。これらの「援助交際」がどの程度現実に即しているのかは知らないが、この映画の中にはそれを生々しく感じさせる空気がある。女子高生たちの一挙手一投足が金を生み出す奇妙なシステムが、少なくともこの映画のなかではきちんと機能していて、観客に疑問を抱かせない。

 めまぐるしくカットを刻むリズムが、映画の後半では不思議な酩酊状態さえ呼び起こす。画像のオーバーラップ、モノローグの多用なども含め、これは『エヴァンゲリオン』と同じ手法の延長上にある処理だ。はっきり言って、すごく好き嫌いの別れる映画だと思う。これを「映画じゃない」と拒絶する人もいるだろう。だが僕はこの映画を断固支持する。映画監督・庵野秀明に注目したい。


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