黒の天使
Vol. 1

1997/11/19 松竹第2試写室
葉月里緒菜も高島礼子も、銃を振り回す柄じゃないんだよね。
アクションに気持ちが乗らなくて白ける。by K. Hattori



 石井隆の映画は、『GONIN』『GONIN2』『黒の天使 Vol. 1』と、どんどんつまらなくなってくる。今回の映画は、開始早々から退屈で退屈で、不可解で不愉快で死にそうだった。タイトルに「Vol. 1」とあるからには、パート2を作るつもりなんだろうか?

 幼い頃に目の前で両親を殺された一光は、「黒の天使」と名乗る若い女に助けられた。海外に脱出した一光は、十数年ぶりに日本に戻り復讐を開始する。ヒロインを演じた葉月里緒菜に魅力と説得力がない。この物語の一方の柱、「黒の天使」こと魔世を演じるのは高島礼子。この人にも、役柄なりの説得力がまったくない。物語はこのふたりに加え、葉月の異母姉である小野みゆきを交えた、女3人のドラマになる。ところが、小野みゆきは非常に影が薄い。さらに、小野を慕う謎の警官・椎名桔平、小野を補佐するヤクザ幹部・根津甚八、ヒロインを見守るゲイの日系人・山口祥行などが登場するが、これらの登場人物も物語を厚くするのには貢献していない。

 物語が陳腐なのはまったく構わない。登場人物がみょうに格好つけてたり、持って回った行動をしたり、話がどこかつながっていなかったり、エピソードが宙ぶらりんになっていても、ぜんぜん頓着しない。そんなものは、アクション映画において二の次三の次なのだ。アクション映画は、アクションシーンにだけ説得力と迫力があればそれでいい。だがこの『黒の天使 Vol. 1』のアクションシーンに、映画ファンを納得させうるだけの説得力や迫力は皆無だ。人物配置は面白いが、それぞれの役回りがこなれていなくてチグハグ。アクションシーンには、もやもやとした感情のもつれやしがらみを振り切ったカタルシスが必要だと思うのだが、この映画のアクションシーンは、どこまでもモタモタと歯切れが悪い。試写室の中で、アクションシーンになると笑いが起きてたぞ。

 例えば、ヒロインである一光とパートナーである金髪の日系人ジルの設定に、どれだけの説得力があるか。背景説明なんてどうだっていい。問題は、彼らの「気持ち」に観客がどれだけノレるかだ。残念ながら、僕は一光やジルの気持ちがまったく理解できなかったし、当然のことながら、彼らの行動にも共感できなかった。そもそもジルは何のために日本に来たんだ?

 目の前で両親を殺された一光は、14年の間、何を考えていたのか。もし彼女が復讐のために時を過ごして来たのだとすれば、その殺意は極限まで純化され、相手を目の前にしたときあれこれ思い悩む余地は残されていないのではないか。葉月里緒菜は、なぜ小野みゆきを前にして引き金を引くのをためらうのか。この迷いが物語の後半を引っ張って行くのだから、そこには納得できる説明がなければならない。

 根津甚八に捕えられ、リンチを受けた葉月が、泣きわめきながら逃げ惑う姿はうるさいだけ。『GONIN2』では当然のこととして描かれていたレイプも、ここには存在しない。すべてが嘘っぱち。困った映画だ。


ホームページ
ホームページへ