新・サラリーマン専科

1997/11/18 松竹第1試写室
森繁がすごく面白いんだけど、物語の世界からは浮いてる。
むしろ中村梅雀の芸人ぶりに唸らされる。by K. Hattori



 『男はつらいよ』シリーズの併映作だった『釣りバカ日誌』が一本立ちした後、後継作品としてスタートしたこのシリーズもはや3本目。寅さん打ち切りで援護射撃がなくなったぶんを、どう盛り立てて行くのかと思ったら、今回は寅さん映画の特別篇と同時上映でした。松竹はこうして寅さんで援護しながら、この『サラリーマン専科』シリーズを、『釣りバカ』に続くヒットシリーズに育てたいのでしょう。人気シリーズを持つということは、それだけ映画会社の経営安定につながります。だからどの映画会社も、必ずシリーズを作りたがるし、作ったらちょっとやそっとじゃ止めようとしない。東宝は『ゴジラ』の後に『モスラ』をはじめたし、東映は『極道の妻たち』を手放さない。

 『新・サラリーマン専科』の監督である朝原雄三には、デビュー作『時の輝き』から注目してました。1964年生まれで、まだ33歳。松竹が彼に『サラリーマン専科』をあてがったときは、若い才能を早々にシリーズにつぎ込んで食いつぶすのかと気の毒に思いましたが、考えてみれば、会社のあてがい扶持で毎年映画が撮れる監督なんて、今の日本では恵まれてます。なんとかこのシリーズをテコにして、山田洋次に次ぐ松竹の看板監督に成長してほしい。せっかくのシリーズなんですから、小さく世界をまとめないで、いろんな冒険をすべきでしょう。そうして地力をつけた上で、シリーズを離れて自分の撮りたい映画を撮れるようになってほしいものです。

 今回の映画では、三宅祐司扮する主人公の義父役として、森繁久彌が出演しているのが目玉。かつて東宝のドル箱だった「社長シリーズ」の主演俳優ですから、いってみればサラリーマンものの大先輩です。喜劇俳優だった森繁も、ここしばらくは喜劇映画への出演がなかったし、各賞や勲章までもらってしまったあとでは、よもや喜劇に復帰するとは誰も思っていなかったでしょう。身体はだいぶ弱っているようなので、今回もほとんどが座ったままの芝居でしたが、森繁が登場するだけで画面がビシッと引き締まるのはさすがです。なんと、松下由樹とのベッドシーン(布団シーン)まであるんだよ!

 森繁が登場するシーンは確かに面白いんですが、これは『サラリーマン専科』が作ってきた世界とは異質の面白さだと思う。その証拠に今回の映画は、三宅演ずる石橋万作側からのエピソードと、森繁演ずる庄助のエピソードで物語がふたつに割れてます。本当なら、別々の人生を生きてきた二人の男から物語をはじめて、最後にふたつりがぶつかり合い、そこに何か新しい関係が生まれなくてはならない。それがドラマというものです。ところがこの映画では、万作の人生と庄助の人生はすれ違うだけで、ほとんどどこにも接点らしい接点がない。

 むしろ今回面白いのは、森繁より中村梅雀です。梅雀は万作の取引先の営業マンという設定で、接待のお座敷でカッポレを踊ります。上司の台詞曰く「彼はああ見えてもなかなか芸人なんです」って、そりゃ当たり前だ!


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