プープーの物語

1997/11/17 俳優座(試写会)
リトルモアMOVIES第1弾がこれじゃ、先が思いやられるなぁ。
現場で楽しまずに、観客のことも考えてくれ。by K. Hattori



 テアトル新宿のレイトタイムに、年間4本の新人監督作品を配給し、それぞれ3ヵ月ずつの興行を打つという画期的なプログラム「リトルモアMOVIES」。98年2月から、その第1弾として公開されるのが、この『プープーの物語』。監督・脚本は、鈴木清順監督の助監督をしていた渡辺謙作。1971年生まれだというから今年26歳の若い監督です。

 日本の映画界は、新人監督のための資金集めや作品発表の場が少ないのが現状ですから、こうした新しい試みは歓迎すべきなのでしょう。製作・配給のリトル・モアには、1年間といわず、数年に渡ってこの体制を維持してほしい。5年で20本も作品を製作・配給していれば、中から世界で通用する才能がひとりぐらいは巣立って行くかもしれません。松竹のシネマ・ジャパネスクなどもそうですが、製作や配給、興行までを貫く、新しい映画ビジネスの試みは、これからもどんどん増えてきてほしい。そのためにもシネマ・ジャパネスクやリトルモアMOVIESに、ある程度の成功は収めてもらいたい。

 しかしながら、今回の『プープーの物語』は、新しいことをやるのだという意気込みしか買えない残念な映画になっている。この映画で客を呼ぶのは無理だよ。内容は支離滅裂で、悪ふざけをしているとしか思えないストーリー展開は、観客をウンザリさせるだけ。國村隼、原田芳雄といった芸達者な俳優たちも、あまり活かされていない。特に主演の上原さくらと松尾れい子が、何を考えているのかまったくわからず戸惑う。役柄の設定など吹き飛ばすぐらいの存在感があればそれでも映画は成り立つのだが、彼女たちにそれを期待しても意味がない。この映画の中で一番見応えがあるのは、國村と原田が互いにピストルを向け合って一騎討ちをする場面。馬鹿な場面なんだけど、俳優に存在感があるから、きちんと映画っぽく仕上がっているのです。

 乳母車を押しながら、北海道の原野をヒッチハイクする2人の若い女、フウとスズ。スズが産んだ赤ん坊を、父親に会わせるべく旅をするふたりの前に、父親が送り込んだ殺し屋、赤ん坊を自分たちの子供だと主張するゲイカップル、青いスポーツカーのプロゴルファー、謎のトランクマンなどが次々と現われる。こうした雑多な登場人物をひとつの物語にまとめるのなら、物語の構造自体をものすごくシンプルにしておくと楽だ。一応ロードムービー風の設定になっているので、まずは旅の目的を明確にすること、主人公であるふたりの女の性格付けをしっかりさせること。こうした足もとが盤石の備えになれば、あとはどんな話を横に持ってきてもゆるがない。

 この映画では、エピソードごとに物語が大きく蛇行して、まったく先が見えなくなってしまう。先が読めないどころか、今立っている場所すら定かでなくなってくる。物語はきりもみ状態で終盤に突入し、歯切れの悪いエンディングを迎える。いいのか、これで本当に? これで満足できる観客が、どれだけいるのだ? 謎だ……。


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