キス!キス!キッス!

1997/11/11 ユニジャパン試写室
ジョルジュ・ド・ボールガールが1963年に製作したオムニバス映画。
キスをテーマにした5つの物語が描かれている。by K. Hattori



 プレス向きの試写会というのは、あらかじめ名の知られている話題作以外、観る側にほとんど何の情報も与えられていないところからの鑑賞になる。この映画もタイトルとフランス映画だという予備知識しか持たずに出かけたら、画面に映ったのはどう見ても数十年前のモノクロ映像。じつはこの映画、1963年製作の映画をニュープリントでリバイバル公開するものだったんです。中身は1時間37分の上映時間を5つのエピソードで区切ったオムニバス映画で、それぞれ「キス」にまつわるショートストーリーという以外に共通点はない。各エピソードの監督は、ベルナール・T・ミシェル、ベルトラン・タヴェルニエ、ジャン=フランソワ・オデュロワ、クロード・ベリ、シャルル・L・ビッチュ。製作はゴダールを世に出した、ジョルジュ・ド・ボールガール。すべてのエピソードを撮影したのはラウル・クタール。

 各エピソードとも20分足らずの短編ですが、オムニバス映画の常として、各エピソードで仕上がりに出来不出来のばらつきがある。そもそもこうした作品を成功させる大前提は、与えられた時間にピッタリの素材を探してきて、時間ピッタリに演出することでしょう。20分だと盛り込めるアイデアはひとつかふたつしかないわけで、あまり欲張ると内容が消化不良になるし、かといって20分という時間をなめてかかると間延びした絵になってしまう。この映画の中では、第1話「夏のキス」と第2話「ユダのキス」が、時間にピッタリとはまっている。第3話「夜のキス」は間延びしすぎ、第4話「16才のキス」は詰め込みすぎ、第5話「親愛なるキス」は消化不良気味のように見えました。

 僕の印象でいうと、第1話がよくまとまっていてまずまず面白く、第2話は人物の配置や役割分担を明確にしてコンパクトにまとめた快作で、第3話はひねり不足、第4話は駆け足気味、第5話はポイントが絞り切れていないと思います。第2話を監督したベルトラン・タヴェルニエと、第4話の監督クロード・ベリは、現代フランス映画界で活躍する監督になっています。逆に、この映画で同時にデビューしても、その後ひっそりとテレビか何かで食っている人もいる。つまらないアイデアを延ばして延ばして20分を埋めた第3話の監督や、20分間で何をすべきかさっぱりわからなかった第5話の監督なんて、やっぱり消えてしまったみたいですね。第1話の監督も、今ではテレビで活躍しているようです。

 この映画は日本でも1964年に劇場公開され、その時は『接吻・接吻・接吻』というタイトルだったとか。正直言って、製作から30年以上たった今になって、この映画を日本で公開する理由がよくわかりません。つまらない映画だとは思いませんが、特別面白い映画だとも思えないんだけどな……。この映画を作品としてではなく、興行として考えた場合、「なぜ1998年の日本で『キス!キス!キッス!』なのか?」という明確なコンセプトがほしいと思う。僕にはそれが見えませんでした。


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