ピースメーカー

1997/11/10 UIP試写室
盗まれたロシアの核弾頭をアメリカが探すのが、冷戦後の世界の現実か。
スピルバーグ率いるドリームワークスの第1回作品。by K. Hattori



 スティーブン・スピルバーグ、ジェフリー・カッツェンバーグ、デビッド・ゲフィンによる新しいエンターテインメント・スタジオ、「ドリームワークスSKG」の第1回作品は、ミミ・レダー監督のサスペンス・アクション『ピースメーカー』だ。鳴物入りで登場したドリームワークスの作品にしては、内容に突出した部分はないが、むしろこれがドリームワークスの方向性かもしれない。『ピースメーカー』は「普通のアクション映画」ですが、このレベルの作品がコンスタントに生み出されるなら、このレーベルの力はすごいよ。

 ミミ・レダー監督はこれが長編映画デビュー作ですが、テレビドラマ「ER/緊急救命室」の演出家として賞をもらったこともある実力者。主演のジョージ・クルーニーとは「ER」を通じて旧知の仲というわけです。既に監督第2作『ディープ・インパクト』をドリームワークスで撮ることが決まっているなど、これから売り出して行く女性監督でしょう。アクション場面の演出など、なかなか手慣れたものです。第1作目ということもあって、まだ監督の持ち味や特徴はよくわかりませんけど、映画作りの技術は水準以上と言えるでしょう。

 ロシアで盗み出された核弾頭を追うアメリカの特別チームと、核弾頭強奪犯たちの駆け引きを描く物語です。映画の冒頭にある、列車からの核弾頭強奪シーンの迫力。盗まれた核弾頭を追う、スパイ映画ばりの情報戦。核弾頭が第三国に売却されることを阻止するための、決死の捜索活動。テロリストの手に渡った核弾頭を追う、追跡劇の結末まで、一瞬たりとも目が離せません。列車あり、カーチェイスあり、飛行機あり、ヘリコプターあり、足を使った路上の追跡ありと、あらゆるアクション映画の要素がぎっしりと詰まった、サービス満点の構成になっています。脚本は『クリムゾン・タイド』のマイケル・シーファー。よく考えられた脚本の構成です。

 これで各登場人物がきっちりと描き分けられて、盤石の配置になっていれば言うことがないんですが、この映画にはちょっと弱いところがある。それは核弾頭強奪チームの背景です。ボスニア紛争で家族を失った男が、「ピースメーカー」たるアメリカを逆恨みしてテロを企てるという説明がなされていましたが、どう考えても、彼の家族の死とアメリカ憎しという感情がしっくりと結びつかない。単なる「逆恨み」に思えてしまうのです。ボスニアでアメリカが何をしたのかという問題提起や告発があるわけでなし、これではテロリストとボスニアを、気まぐれで結び付けたようにしか見えません。観客がもっとテロリストの悲しみに共感できるようにしないと、物語のクライマックスが生きてこない。

 ニコール・キッドマン扮する情報将校と、ジョージ・クルーニー演ずる猪突猛進型軍人のコンビが面白い。僕はふたりのキャラクターと取り合わせが気に入ったので、ぜひとも続編を作って、ふたりを再び活躍させてほしいと思っている。人物さえ面白ければ話が弱くてもOKよ。


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