恋人たちのポートレート

1997/11/06 GAGA試写室
イギリス人女性を主人公にしたフランス製恋愛コメディ。
登場人物が生き生きしていて面白い。by K. Hattori



 フランス製の恋愛コメディですが、主人公をイギリス人女性に設定したことで、人間関係の描写がかなり風通しよくなっているような気がします。パリのファッション界で働く主人公アダを演じるのは、英国だけでなく、最近はハリウッドでも活躍しているヘレナ・ボナム=カーター。彼女の存在がなければ、この映画はもっとベタベタに煮詰まった人間ドラマになったことでしょう。彼女の芝居には、一足飛びに相手の懐に飛び込んで行くようなスピード感がある。それでいて名門出身らしい品があるので、がちゃがちゃとうるさくならないのです。中盤以降、登場人物それぞれのエピソードが別々の方向に散らばっていっても物語がなんとかひとまとまりになっているのは、ボナム=カーターの存在感によるところが大きいと思います。

 アダから恋人を奪うリーズを演じているのは、『アパートメント』でも親友の恋人を奪う女を演じていたロマーヌ・ボーランジェ。今回の映画では、彼女が憧れていたのは脚本家のポールではなく、魅力的な女性であるアダその人だったというオチがついています。リーズは父親の経営するカフェを手伝っていたとき、そこで打合せ中のリーズが生き生きしている様子に感銘を受け、「将来は自分もこうなりたい!」と考える。アダへの憧れこそが、リーズのファッション業界入りのきっかけになり、そこで彼女が才能を伸ばして行くもとにもなっている。リーズがポールを奪ったのは、それによって自分とアダの同一視が完全になるからです。ひとりの女性の心理としては、なかなかに興味深い。ただし、このくだりは理に落ちすぎていて、感覚的な説得力に欠けると思います。僕は最後まで、リーズに同情できなかった。

 映画に登場するカップルの中では、情緒不安定なエマと、映画のプロデューサーであるアルフォンスのエピソードがとても楽しかった。反発しあっていたふたりが、徐々に歩み寄って結ばれるところが素敵です。登場するどの人物も個性的でよく描けている映画ですが、特にこのふたりは出色のキャラクターでしょう。エマが買物でストレス発散する様子は哀れすぎて涙が出そうになるほど面白いし、作った映画に対する辛辣な評に腹を立てるアルフォンスの姿にも同情してしまって大笑い。

 モノローグがドラマの中で効果的なスパイスになっています。アルフォンスの秘書ニナが、アルフォンスのちょっとした言葉を愛の告白と誤解するエピソードには、観ていてクスクス笑いが止まらなくなってしまった。この場面は、モノローグと役者の芝居が、本当に巧妙に組み立てられている。

 映画を使ってポールがアダに自分の心情を告白するラストシーンは、もう少し感動的に演出してほしかった。このシーンに至る伏線を張って、最後に感情の堰が切って落とされるような構成にしなきゃいけないんだけど、それにしては少し仕込みが足りないんです。本当に面白い映画だっただけに、少し物足りないラストでした。


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