チュンと家族

1997/10/31 ユニジャパン試写室
台湾のポスト・ニューウェイブ世代の監督が作った青春スケッチ。
エピソードの積み重ねから主張が見えてこない。by K. Hattori



 12月から三百人劇場で開催される、「台湾映画祭」に出品される映画の1本です。今回の映画祭は、台湾映画の全貌を大局的に俯瞰することを目的に、1960年代の旧作から、今の台湾を写す最新作まで、全50本の作品が上映されるそうです。映画祭の目玉は、1月下旬に予定されている「胡金銓(キン・フー)祭り」でしょうか。『龍門客棧』『侠女』など、彼の代表作をスクリーンで観る数少ないチャンスですもんね。映画祭ではこの他にも幾つかの特集を用意し、台湾映画の面白さを十二分にアピールする予定。楽しみにしてます。

 この『チュンと家族』は、96年製作の新作映画。監督のチャン・ツォーチーは、台湾でポスト・ニューウェイブの代表的な監督と言われているらしい。この映画は長編第2作。中学を出たまま、将来の目的もなくブラブラしている主人公チャンと、彼を取り巻く家族の様子をスケッチ風に綴ってゆく作品です。僕はこの映画を観て、河瀬直美の『萌の朱雀』を思い出した。どちらも複雑な家族の関係性について、一言も説明をしてくれないため、観ている方が誰と誰がどんな関係なのかを推理しているうちに映画が終わってしまう。『チュンと家族』でも、主人公チュンにとって姉は「義理の姉」だと言うから、血のつながりはないのかな。父親と母親は再婚同士で、チュンは父の連れ子、姉は母の連れ子、弟は両親の子供、両親が別居して、子供が全部母親に引き取られているという関係なのかな。このあたりは、最初にきちんと説明してくれないと、すごく気持ちが悪い。

 ひょっとしたら中国語には血縁関係をずばり一言で表わす単語があって、日本語字幕ではそれが翻訳しきれていないのかもしれない。そうだとしたら、これは文化の違いだな。もっとも仮にそうだとしても、それは字幕屋さんが工夫すべきだとは思いますけどね。

 主人公チュンは母親の希望もあって、「八家将」という台湾の伝統芸能を修行し始めます。この修行風景は、観ていてなかなか面白かった。大勢の子供たちが、こうした古来からの芸能集団に身を投じる様子は、日本ではすっかり姿を消したものです。中学を出たばかりの子供たちが一心不乱に修行に励み、それで食っていける制度が社会の中に残っているのですね。日本では相撲の世界がそれに近いのかもしれません。

 主人公中心に物語が展開してゆき、祖父の死、義姉の恋人の死など、ドラマチックになりそうなエピソードがちりばめられているのに、物語がもうひとつ大きなうねりを見せません。人生の目的が見出せないまま、ダラダラと日を送っている少年の話とはいえ、映画のテンポまでがダラダラと間延びする必要はない。少年が自分の将来に目標を見つけられないにしても、映画は演出ポイントを明確にしておかなくちゃいけません。がっちりと物語を組み上げない映画があってもいいとは思うけど、この映画からはそうした明確な意図も見えてこない。何もかもが中途半端に思えてしまった映画です。


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